22回 帰りを待つ間に、義勇兵を取り巻く状況を踏まえてやれる事を探っていく
一通りやる事をやったタカヒロは、周旋屋でミオとサキの帰りを待っていた。
やる事もないのであとはただ退屈なだけである。
これからの事を考えてもそれだけでは時間は進まない。
これからの狩り場はどこにするか、どこにどんなモンスターが出てるのかといった事は、現実に出向いた人間にしか分からない。
なので、これらは義勇兵が集まってくるまで情報収集は不可能。
せいぜい、好意によってもたらされた情報を調べ直す程度である。
義勇兵の情報というのは、独占と拡散の差が激しい。
モンスターの出現地域などは、義勇兵だけでなく軍隊を含め広く世にしらしめねばならない。
でなければ、対策が遅れてしまうからだ。
どこにどんなモンスターがいて、それらがどの程度の規模なのか?
こういった情報が全くしられる事が無かったら、対策が出来なくなる。
その結果、村や町が襲われて消滅するという事態も起こる。
襲われる被害を減らすためにも、情報は極力共有が求められる。
なのだが、義勇兵の場合これが当てはまらない事もある。
何せモンスターを倒して出現する核を手に入れる事が収入になる。
この核を少しでも多く手に入れるには、出来るだけ多くのモンスターを倒さねばならない。
となると、効率良く稼げる場所というのはどうしても秘密にしておきたくなる。
それがモンスターという危険な存在が蔓延る場所であってもだ。
義勇兵からすれば、危険なモンスターであっても収入源である。
数多く確保しておきたいというのは、やむにやまれぬ人情であろう。
確かにモンスターは危険な存在ではあるのだが、確実に倒す事が出来るなら宝の山でもある。
倒せば確実に核が手に入る。
そして、核はモンスターを倒さない限りは手に入らない。
高位の魔術を用いれば、人工的に作る事も可能ではある。
だが、その為には人間の精神力を用いねばならない。
そうやって魔力を凝縮した固形物である核を作る。
だが、これはさほど効率的というわけではない。
消費せねばならない精神力が大きく、しかも得られる核の数を確保出来ない。
高位の魔術が必要になるので、作成料に限界がどうしても発生してしまう。
大量に確保するには、モンスターを倒した方が早い。
現実問題として、必要数を手に入れるにはモンスター退治をするしかない。
その核を確保するために、義勇兵は自分の狩り場を秘密にする傾向がある。
当然ながら狩り場とはモンスターが出現しやすい場所である。
モンスターの群などがいる場所を、他の者に教える事無く自分達だけで秘密にする。
これがどれほど危険かは言うまでもない。
こういった狩り場がモンスターの繁殖場になり、数を増やしたモンスターが周辺に拡散していく事もある。
村や町を襲う事だってある。
過去に起きたモンスターの大量発生による襲撃などは、義勇兵のこうした行為が原因になった事もある。
これもまた義勇兵が白眼視される原因になっている。
このため、心ある義勇兵は可能な限りモンスターの出現情報を共有しようとする。
だが、何事も例外はある。
稼ぎを優先するものはどうしても後を絶たず、その為に危険を冒す事を厭わないものもいる。
それが自分達だけでおさまる問題ならばとやかく言う必要もないだろう。
しかし、そうやって自分達の稼ぎを確保する事が、やがてやってくる危険を招くのであれば放置も出来ない。
治安機関や軍隊も含め、こうした不良義勇兵の動向には目を光らせている。
自分達の稼ぎのためだけに周囲に危険をまき散らすような連中を、統治者は快く思わない。
統治者だけではない、一般庶民とて自分達に危険が及ぶような事を見過ごすわけにはいかない。
その為、義勇兵は自らの自浄作用としてこうした身勝手な我が儘を糺すことを余儀なくされている。
なお、こうした危険な行為をあえて行う連中の言い分は、だいたいにおいて一定の所に収束する。
曰く、確実な稼ぎを求めて何が悪い。
曰く、危なくならないように、モンスターの数は調整している。
曰く、本当に危険なら躊躇うことなく他の者達に伝える。
こういった言葉が履行されることが全くないのは言うまでもない。
そして、彼等が決して口にしないであろう理由は、これらとは完全に趣を異にする。
結局、こうした者達は周囲の迷惑を、被害を考えない。
自分の利益の為に他を犠牲にする。
危険になれば、周囲に通知したり自分達も対処したりもしない。
真っ先に逃げ出し、危険から遠ざかろうとする。
自分勝手というしかない。
出現数が一定しないモンスターをどうにか効率良く狩ろうというのは分かる。
だが、それでもおびき寄せる方法があり、ある程度の稼ぎはどうにかなる。
それなのに危険な事をする者達は、義勇兵の中でも敵として扱われる。
放置すれば義勇兵そのものが排除対象にされる。
これらが、義勇兵同士の間での対立を生んでもいた。
極力危険を減らそうという者達と、自分達の利益優先で他の被害を省みない者達と。
そして後者は犯罪者として扱われている。
モンスターの居所を教えないというのは、それだけで危険行為と見なされるようになっていた。




