216回 何よりも苦戦する相手
周囲のそういった動きによって、タカヒロ達の負担も少しずつであるが減っていく事にはなる。
だが、それも即座に起こる事ではない。
数年という時間をかけてなされる事である。
それも始まった時点ではどれ程の規模になるかは全く分かっていない。
義勇兵が流れ込んで来てる事は聞いてはいるが、最初は「物好きがいたもんだ」といった認識でしかなかった。
実際に負担が減ってきてようやく実感がもてるというのもある。
それを感じ取るには時間がまだ足りない。
また、周囲にあらわれ始めた変化よりも、目の前にあるものに対処せねばならない。
「とーちゃん」
「おう、どうした」
甲高い子供の声に呼び止められる。
もうしっかりと歩けるようになった長男がタカヒロに抱きつく。
足にしがみつかれたタカヒロは、困った顔をする。
「僕も行くー!」
そう言ってタカヒロについていこうとする。
それをタカヒロは無理矢理はがして、
「駄目だ」
と言う。
すると、
「いやいやいやー!」
と息子は首を振る。
子供が何かと嫌だ嫌だと否定する時期。
それにさしかかってきてるようだった。
あるいは、父親と一緒に外に出ていきたかったのか。
どちらであるかは分からないが、我が子が自分の意志を示してるのは確かだ。
「おいおい」
苦笑しながら、それでも引きはがす。
「ちゃんと家で待ってろ」
「いやー!」
そう叫ぶ我が子を、家から出て来たミオに預け、タカヒロは今日の作業へと向かっていった。
子供の成長と共に様々な手間と面倒が増えていく。
成長を見るのが楽しいが、関わっていかねばならない面倒さも増える。
それもまた楽しい事の一つではあるのだろうが、やはりままならなさも感じる。
我が儘を言い、思った事を口にし、やりたい事をしようとする。
そんな子供にあれこれ教えたり窘めたり、褒めたり叱ったりととにかく忙しい。
何をしてもぐずる事もあれば、一緒にいるだけで笑い続ける事もある。
そんな子供の相手は、とにかく分からない事だらけで悩みっぱなしだった。
だが、考えても考えてもどうしようもなく、もうしょうがないと諦めて接している。
(どうしたらいいんだか)
そう思い続ける毎日だった。
それでも家に戻ればまとわりついてくる。
抱きついてくるし、突進してくるし、なぜだか叩いてくる事もある。
そんな我が子を抱きかかえ、高い高いと抱え上げていく。
我ながら不器用だと思いつつも、何とか子供を理解しようとつとめていく。
そしてそれが無理だと諦めて、なすがままにされていく。
あるいは思うがままに触れていく。
こんなんでいいのだろうかと思いながら、父親としての日々は続いていた。
「本当にしょうがないわね」
ミオの笑い声に眉を寄せながら、タカヒロは子供とどう接するべきかを考え悩み続けていた。
目下のところ、もっとも難しい問題はこちらであった。
子供にどう接すればいいのか。
いまだに答えがみつからずに頭をひねる毎日である。
モンスターよりも難しいものがあった。




