203回 未来への布石 2
「──だいたいこんな所だな」
思いつく事を並べていったタカヒロは、そこで話を終えた。
「今、国中で攻勢に反対している。
それはしょうがないし、今はそれでいいと思う。
でも、この先ずっとってわけにはいかない。
いずれ外に出なくちゃならない時も出て来る。
その時に、国が動かないなら、俺達にとって絶好の機会になる。
俺達だけで外に出て、場所を取る事が出来る」
その為には相当な準備と兵力が必要になる。
だが、やれば得られるものはとてつもなく大きい。
タカヒロと頭領がやってるように、モンスターに制圧された地域は、奪取した者の所有物になる。
これは不文律としてほぼ認められてる事だ。
国も下手に横取りは出来ない。
そんな事をしたら、苦労して場所を制圧した者達の反感を買うからだ。
モンスターを撃退出来るほどの戦闘力を持つ集団を敵に回す。
そんな事をするほど国も愚かではなかった。
もっとも、それを理解するまでに、何回もの反乱と暴動を起こし、相当な被害を出してきたのだが。
「その気があるなら、外にある場所全部奪って、あんたが王様になっちまえ」
それだけ言ってタカヒロは話を終えた。
分かった、とだけ口にした頭領は、タカヒロが立ち去ってからも考えこんでいく。
(これで上手くいくかな)
まずは一つ、将来に向けての布石として、一手を打っていった。
国の意見を変える事は難しいが、やる気のある者達に働きかける事は出来る。
それが、義勇兵の頭領への呼びかけだった。
今は廃墟の再興に忙しい彼等だが、それが一段落ついたらその先を見据えていく事になるだろう。
稼ぎ場であるモンスターの巣は、いずれは壊滅する事になる。
廃墟の近くになるので、放置するわけにはいかないからだ。
それを義勇兵達ならばやってのけるだろう。
何せ規模が違う。
元々数十人以上の規模だった彼等は、国内から人を集めに集め、今や数百人ほどに膨れあがっている。
それを統括するために大忙しであるが、おかげでモンスターの巣は順調に攻略出来てるようだ。
密輸の方も順調で、今や周辺地域の経済や流通の中心になりつつある。
そんな所に人も集まり、益々活発になっていってるようだ。
いずれ、出来上がった町をまとめる立場に落ち着く事になるだろう。
だが、それで終わるわけではない。
集まった義勇兵達が食っていくために、モンスターが必要になる。
だが、モンスターが消えれば食い扶持はなくなる。
そこで別の仕事に就ければよいが、そう簡単にはいかない。
戦闘技術を高めていくしかない義勇兵はそれ以外の事が疎くなりがちである。
簡単に他の仕事に転職など出来るわけがない。
モンスターとの戦闘をこなしながら、手に入れた経験値を一般的な仕事で使える技術につぎ込んでいれば良いのだが。
そこまで余裕のある者などそうはいない。
新たにやりなおしていくにしても、それも難しい。
なので、そういった者達を放り出さないためにも、戦闘が必要になっていく。
向かう先は国境の向こう側しかない。
国内のモンスターの巣を潰していっても良い。
それは新人達のレベルアップのために使ってもよい。
どれ程大きな規模であっても、出て来るモンスターの数が決まってるのだ。
無限にモンスターと戦う必要は無い。
それに、国内からモンスターの巣がなくなれば、その分義勇兵も仕事にあぶれる。
それらを吸収して大きくなる機会でもある。
何にせよ、平和や安全が手に入れば、あとは外に向かっていくしかなくなる。
そうなった時に、国がそれを拒否していてはどうしようもない。
何らかの形で外に向かっていき、生存圏や安全圏を 拡大せねばならない。
国が動かなくても、義勇兵などが動いてくれれば多少は代わりになるかもしれない。
そう思ってタカヒロは頭領を焚きつけていた。
頭領もそういったタカヒロの意図は感じていた。
乗せられてるというのも分かってる。
だが、それだとしても利点は大きい。
もし今以上の規模を目指すならば、そうしていった方がいいとも思う。
もっと稼ぐために、より高い地位を確保するために。
貴族や武家といった身分は手に入らなくても、巨大な集団の頂点であればそれは出世と言える。
頭領にもそういう野心はある。
元々は農家の四男坊である。
そこから抜け出すために義勇兵になったのだ。
可能性があるならそこに向かっていこうという気持ちはある。
(やってみるか)
すぐには無理だが、出来るところから確実に。
まずは義勇兵を集める事から。
そして、町の再生。
自分の居場所をつくり、勢力を蓄えねばならない。
(面白くなりそうだ)
久しく感じてなかった躍動を、頭領は感じていた。




