200回 事の顛末 4
置き土産はまだある。
タカヒロにとって最も頭の痛い問題ともなるものが。
モンスターの数が増えたのだ。
国境の混乱が原因である。
防衛の為にもともと張り付いていた部隊は、さすがに動く事はほとんどなかった。
政治の中枢に入りこんだ攻勢派も、この部分をいじる事は出来なかった。
それでもあれこれと努力して、可能な限り部隊を抽出していった。
それらを攻勢に出る部隊に加えて、戦力の補強をしていった。
当然ながら、その分防備は薄くなる。
やむなく現地の部隊は、抜き出された部隊の分を補うために縮小再編成。
国境の隙間を増やす事になるが、各部隊の戦闘力を維持する事にした。
こうして隙間だらけになった国境地帯から、モンスターが国内に流入していった。
その影響は、国境近くの地域がそのままかぶる事になる。
これらの地域において、攻勢派が蛇蝎以上に嫌われ、見つかり次第制裁を加えられていく事になる。
また、国力が回復するまで、攻勢を支持するような発言をすれば、それだけで周囲から縁を切られるようにもなった。
実際、モンスターの流入で得をするものなどほとんど無い。
義勇兵とて、対処仕切れないほどの数が出てきたらお手上げになる。
攻勢終了後の国境付近のモンスターは、それくらいの数が押し寄せていた。
義勇兵による対処の限界ギリギリである。
レベルの高い者達であっても命がけにならざるえない程だった。
「あの屑共おおおお!」
連日自分達の住む村の近隣にあらわれるモンスターを倒しながら、タカヒロは絶叫していた。
レベル10を超える戦闘技術を持つとはいえ、あふれるほどのモンスターを相手にするのは困難である。
それでも村を守るために、日夜最大限の努力をしていった。
「クソが!」
使い慣れたスコップをモンスターに叩きつけていく。
いまだに刀剣や槍といった武器よりも、作業道具であるスコップの方が扱いやすい。
そのスコップを、予備も含めて幾つも持ち込んでモンスターを倒しまくっている。
撃破数は過去最大を常に競うほどだった。
他の連中も同じである。
核も経験値も大量に手に入るが、何一つ嬉しくなかった。
そんな戦闘を繰り広げながら、防備を固めていく。
村に入り込まないように、堀を掘って土嚢を重ねていく。
モンスターの動きを全て止める事は出来ないが、村からそれていくように作り上げていく。
時間も手間もかかるが、そうしていかねばどうにもならない。
手をゆるめれば、村が壊滅しかねない。
今まで以上に備えを強化しなくてはならなかった。
罠も今まで以上に設置していった。
村を囲む土嚢を更に積み上げた。
女でも戦えるよう、ボウガンなども仕入れていった。
実際、村の近くまでモンスターが迫った時には、それを手にとって女衆が撃退する事もある。
弦を引いて射撃可能状態にしておけば、あとは引き金を引くだけなので、比較的簡単に使えるのが便利だった。
女の力で弦を引くのは難しいので、それ専用の機具は必要だったが。
だが、そこまでせねばならない状況なので、嫌も応もない。
やらねば死ぬのだ。
おかげで、村の者達のレベルは今までにないほどの勢いで向上していった。
しかし、何の慰めにもならなかった。
「畜生!」
「あの野郎共!」
「二度と戦争なんかさせねえからな!」
村のあちこちで、こんな状況を作り出した連中への怨嗟があがっていく。
この国において、今後長きにわたってモンスター領域への攻勢が否定され続けていくのは、こういった体験を持つ世代がかなり多かったからである。
そして、これが今後数十年にわたる努力と苦難、それがもたらす繁栄期の始まりであった。