20回 彼女視点の色々な思い 2
(でも、こうなるなんて)
奴隷商人からタカヒロに売り渡されて、とりあえず酷い事にはならないだろうとは思った。
だが、まさか同じ部屋で寝泊まりするとまでは思わなかった。
それも風呂から出て来るまでは、あるいはサキに色々言われるまではそれほど問題だとも思ってなかった。
村ではそれほど男女間の境目がない。
子供の頃から一緒で男女の違いなどさほど意識する事もないからだ。
年齢と共に多少は区別や仕切りも出てくるが、それも強いものではない。
一応違うんだよと言われる事がある程度である。
さすがに子供の頃のように、裸で水遊びをするというような事はないが。
だが、性別の違いを強く意識するような事はあまりなかった。
しかし、水浴び場につれていってくれたサキに色々言われて少しは思い直しもした。
ここは村ではないし、周りにいるのは本当に赤の他人である。
馴染みの人間などいないから、簡単に気を許すなと言われた。
「何をしでかすか分からないのもいるからね」
そう言ってお湯で体を洗ってるミオに色々と教えてくれた。
同じ所で生まれ育った者同士ならば、何となく雰囲気や慣習などの規律を守ったりする。
それでも問題や事件が起こりはするのだが、良くも悪くも相互監視が働く部分もある。
だが、様々な人間がやってくる町だとそうもいかなくなる。
出入りが比較的容易であるというのは、何かをやらかしても逃げ道があるという事でもある。
それだけに、悪さを平気でやるような人間も出てくる。
特に義勇兵は荒くれが多い。
明日は死ぬかもしれないから、どれだけ羽目を外してもいい、今が楽しければと考える者が多い。
今が楽しければそれでいいという、刹那的な、あるいは自棄になってる者がほとんどだ。
だから、何かしら馬鹿をやる者が出てくる可能性がある。
それを危惧して、周旋屋の女は団結してると聞いた。
(タカヒロ兄ちゃんもそうなのかな)
言われて多少は危惧というか警戒心を抱きもした。
確かにタカヒロはお人好し、それも馬鹿なのではと思えるところがある。
だが、それも四年前までの話だ。
義勇兵としてやっていくうちに人が変わってる可能性もある。
そうだったなら、ミオを買い取ったのも善意からではないのではと思えてくる。
(じゃあ、もしかして……)
小さな震えが体に走る。
悲惨な今後が頭の中に浮かび上がってしまう。
まさかと思いたいが、今のミオは相手を拒む事が出来ない。
出来たとしても体力でかなうとも思えない。
最悪の事態になったら、どれだけ自分が無力なのか。
それをあらためて感じた。
タカヒロの事が嫌いというわけではない。
嫌悪感などがあるという事は無い。
だが、好意があるかといえばそうでもない。
せいぜい隣近所の知人という程度である。
顔なじみであり、それだけである。
特別優れた能力があるわけでもない。
性格というか人柄というか、そういった部分が他と違ってるので目を引くところはあった。
だが、それも利点や好意を抱く部分かというとそれも違う。
好ましい人柄ではあるのだが、やはり友人や知人としてという程度である。
見た目も優れてるとは言い難い。
劣ってるわけでも醜いわけでもないが、平均というか平凡なものだ。
つまりはどこにでもいる普通の人である。
そんな人間に、奴隷契約を盾に迫られてしまったら?
(やだなあ……)
当たり前の思い、当たり前の気持ちがこみ上げてくる。
悪い人ではないが、そういう形で迫ってほしくはなかった。
奴隷契約という立場や境遇を考えれば無理は言えないが、ある程度の気遣いはして欲しかった。
そんな調子で二人は、眠れない夜を過ごしていく事になった。