2回 そして奴隷を買う事になったわけだが 2
(それにしてもなあ……)
あらためてミオの方に少しだけ目を向ける。
今は物珍しさが先に立ってあちこちを見渡してる。
しかし、村から出て町につくまで。
そして、タカヒロと契約を済ませて店の外に出るまで。
顔色は決して良いとは言えなかった。
ろくに風呂にも入らず、水浴びもしないから土埃が肌に張りついてるからではない。
自分が奴隷として売られたというのがやはり衝撃だったのだろう。
(けど、あの人達は……)
渡小道家の者達を思い出して、タカヒロは顔をしかめる。
今回の件、決して子供が多いが故の不幸というわけではない。
むしろ、なるべくしてなった結果と言える。
この世界、貧乏の子だくさんは珍しい事ではない。
乳幼児死亡率が高く、生まれた子供がどこまで育つか見当がつかない。
加えて、食い扶持の確保が出来るかどうかもあやしい。
食料生産力はそれほど悪くはないのだが、ちょっとした作物の出来の悪さで食糧難になりかねない。
例え一地方の一地域でだけ作物の出来が悪かったといっても、それの補填が難しいのだ。
物資の輸送を基本的には馬車や牛車などに頼ってるので、流通速度が悪い。
同時に、情報の伝達が遅く、危機が訪れても対処が遅れる。
このため、救援物資が届くにしてもどうしても時間差が発生する。
すぐに救援物資が届けば問題などなかった程度の問題も、一家で誰かが飢え死にする状況になりうる。
統治者である貴族などが無能というわけではない。
どれほど良心的な統治者であっても、こればかりはどうしようもない。
なので、子供ほど死にやすい。
それに対抗するために、どうしても子だくさんにならざるえない。
そして、子供が多いという事はそれだけ食い扶持が必要になる。
矛盾するのだが、全滅を避けるために一人でも多く子供を作り。
その子供を養う事が出来ないので何人かが犠牲になってしまう。
適切な人数で子供の数を留める事が出来れば良いのだが、それがまた難しい。
結局、出来るだけ多く子供を作っておこうとなってしまう。
だが、ここに目をつけ、発想の転換をする者もいる。
それは決して褒められたものではないが、実行する者は皆無ではない。
たくさん生まれた子供を全て生かす事は出来ない。
だが、生まれた子供を死なせるのも勿体ない。
ならば────売り出してしまおう。
こう考える者達は、数こそ少ないが確実に発生する。
ミオの生まれた家も、そうした考えをもっていた。
飢饉というほどでは無いにせよ、不作の年というのは必ずやってくる。
現代日本に比べれば農業技術が発展してない世界である。
そんなところで、天候などに左右されずに安定した収穫高を保つのは難しい。
その為、どうしても口減らしが必要な時も出てくる。
そういった時に、どのような手段をとるかは状況による。
何も食べさせてやれずに、あるいはあえて食べ物を与えずに飢え死にさせるか。
立身出世をしろと焚きつけて、町に追い出すか。
幾らかの金と引き替えに身売りをするか。
他にも様々な方法があるだろうが、だいたいにおいてこういったものが中心となる。
特に、男ならば義勇兵になれと町に追い出し。
女ならば奴隷商人に売り飛ばされる。
だいたいがこういった道をたどる。
それすらもままならない場合が、飢え死にになる。
問題なのは、これを意図的にやる事である。