196回 自分じゃ出来ないから他者をけしかける事に 6
そそのかすような事にもなるが、タカヒロは義勇兵集団を通じて物資を得る手段を確保していった。
これによりタカヒロは仲間を失う事無く求めるものを手に入れる事が出来る。
また、それだけではなく、もう一つ見逃せない利益も手に入れる事になる予定だった。
物資購入ルートが複数になることだ。
今までは町で、それも周旋屋が物資の入手ルートになっていた。
それはそれで問題はないのだが、今回のような事があった場合には、すぐに物資不足にあえぐ事になる。
一カ所しか入手場所がないから、そこが詰まってしまったらどうしようもない。
だが、物資が流れて来る道がもう一つあれば、格段に窮乏の可能性は減る。
それに、競争相手がいるという状態は、値段の高騰を招き憎い。
対戦相手がいれば、それを意識して値段をつけざるえないからだ。
今の状況ではそれでも高い値段がつくかもしれないが、それでもある程度の限界は自ずから発生するだろう。
義勇兵集団が暴利を貪ろうとすれば、町で買えばよい。
町の方が高い値段を維持するなら、義勇兵のところで買えば良い。
値段の抑制を促すのは、物品があふれるほどあるか、競争相手がいるかである。
他にも様々な要因があるだろうが、これらが有効なものであるのは疑いがないだろう。
政治的な値段の統一などほとんど意味はない。
やったとしても、やがて闇市などが出来て、表に出ない別の販売流通網が出来上がるだけである。
タカヒロが義勇兵達に求めたのは、まさにこうした販売流通網である。
(国が乱れてるときには、こういう裏側が発展するとは聞くけど)
前世の知識であるが、禁酒法時代のアメリカが最も有名なものであろうか。
欲望に根ざした需要を規制すると、それを満たすために様々な手段が用いられるという。
また、こうした摘発対象の流通を受け持つのは、ヤクザやマフィアにギャングというのが相場である。
当然ながら、競争相手のいない商売を続けるのだから、儲かるに決まってる。
酒が制限された事で、犯罪組織が巨大化していったのだ。
全く同じというわけではないだろうが、敗戦後の日本の闇市も似たようなものかもしれない。
何にせよ、常とは違う状態に、それも切羽詰まるような状態の時には、本来とは別の流れが発生する。
(けどなあ)
まさか自分がそれに荷担するとは思わなかったので、そこは驚いた。
だが、生きていく為には仕方が無い。
不当な状況に流されて死ぬよりはマシである。
たとえそれが法律として制定されていたとしても、そんなの守る義務はない。
法律とは、互いによりよく生きていく為に、お互いに不当な事を制限するものであるはずだ。
それをしない、いわゆる悪法など法律などではない。
そんなの守って死ぬくらいなら、法律などさっさと破ってしまうべきである。
今の現状は、モンスター領域への攻勢の為に、無茶と無謀を重ねた結果である。
そんなものに巻き込まれて困窮したり欠乏にあえぐなんて願い下げである。
タカヒロは無駄に苦しんで生きる為にこの世にいるわけではない。
どうせ生きるなら、平穏で幸せに生きていきたかった。
その為なら、やれる事を何でもやるつもりでいる。
それが前世の記憶への反省の結果出て来た考えである。
(思った通りに生きてやる)
さすがに他人に迷惑はかけられない。
だが、他者を不幸にする事がない範囲で好き勝手にやっていこうとは思っていた。
無駄な我慢や自制は何の役にも立たないどころか、害悪ですらある。
(とりあえずは、食い物とかが手に入れば)
その為にも、密輸という不当な手段を大々的に開発開拓していかねばならない。
出来る事はほとんどないが、それが成立するよう願っていた。
声には出さないが、義勇兵集団を応援もしていた。
(あいつらを飢えさせるわけにはいかねえ……)
全てはミオと子供の為である。
そして、村にいる仲間とその家族のためだ。
生きるとは綺麗事では成り立たないのだから。