195回 自分じゃ出来ないから他者をけしかける事に 5
「言いたい事はだいたいわかった。
けど、もう一つ気になる事がある」
「なんだ?」
「お前に分け前がない。
俺達が仕切れば、お前が得る利益はなくなる。
それなのに、なんで俺達にやらせようとする?」
もっともな話である。
儲け話なのは確かだ。
危険が伴うが、それは義勇兵をやってればいつでもつきまとう。
それを怖がっていては、儲けなど出せない。
なので、機会があれば躊躇うことなく突っ込まねばならない。
それが分かってるからこその疑問だった。
この話、タカヒロが得られる利益がどこにも無いのである。
「そんな事は無い」
タカヒロは即座にその考えを否定した。
「物資をもってきてくれれば、それだけで助かる。
ある程度適切な値段にしてくれたら購入出来るからな。
食い物すらなくなるよりはよっぽどいい」
儲けられるかどうかよりも、確実に物が手に入るかどうかが大事だった。
「途中で役人に取り上げられる事も、金を払ってもろくに物が手に入らないよりもずっといい。
それだけで俺達には大きな利益だ」
「まあ、そりゃあそうか」
これには頭領達も納得した。
彼等とて色々と品薄状態な現状でどうしようかと悩んでるのだ。
物が手に入るというなら、それだけで助かる。
「多少値段がはったとしても、荷物を運んでくる手間を考えれば安いし」
行って帰ってくるまでの時間。
その間にあるだろう苦労。
それらを考えば、多少の値上がりはやむなき費用として割り切れる。
村を放り出して隣の国まで行くほどの余裕は無い。
「それだったら、あんたらに任せた方がよっぽどマシだ。
密輸で手に入る利益も、町を手中にする可能性も手放す事になるけど。
でも、それが出来るほど俺達は強くも大きくも無い。
だから、どうしても無理だ」
「それで、俺達にやれと。
まあ、分かった。
言いたい事は理解した」
「そうか」
あとは頭領の考え次第となる。
どちらに転ぶかは何とも言えない。
ただ、そんな手間をかけるより、タカヒロ達に襲いかかって物資を奪うなんて選択をしないよう願うだけである。
幸いにもこの頭領はそこまで悪辣でもなく、ここで怯むほど根性なしでもなかった。
「だったら、モンスターの巣を突っ切ってみるか」
頭領は自分達の力に賭ける事にした。
早速その為に動き出していく。
冷や冷やものであったが、交渉は成功した。
義勇兵駐留所にいた集団は、モンスターの巣を突っ切って隣国まで物資を確保しにいく道を選んだ。
実際、彼等ならばそれを為しえる可能性が充分にあった。
レベルの高い者達が数十人ほど揃っている。
通り抜けるだけなら、モンスターの巣など問題無く通過する事が出来る。
また、ある程度の安全性を確保する為にモンスターの巣を攻撃しても、それを成功させる可能性もあった。
人手は足りなくなるが、それも新人を集めてくれば良い。
モンスターの巣に突入し続けていれば、嫌でもレベルは上がる。
数ヶ月もすれば、そこそこの強さを持つ者達も増えてるだろう。
そうなってからあらためて巣を攻撃しても良い。
何にせよ、隣国との間に安全な通り道を造り出す事になるはずだ。
それである程度落ち着いた値段で物資が買えるなら、これほどありがたい事は無い。
輸送路のもたらす利益は魅力的だが、それよりもタカヒロは確実に物資を手に入れる方を求めた。




