194回 自分じゃ出来ないから他者をけしかける事に 4
「話は分かった」
聞き終えた頭領は、とりあえずそう言った。
タカヒロの言ってる事、言いたい事は理解した。
だが、すぐに納得して話を進めるほど短絡な人間でもなかった。
「けど、なんでお前がやらないんだ?」
即座にそう尋ねてくる。
それだけの旨みがあれば、他人にやらせず自分でやればいい。
それをしないのはどういう事なのか気になっていた。
「俺を乗せようってのは分かってる。
けど、旨みがない話ってわけでもない。
なのにお前がやらないのは気にかかる」
存外頭が働くのを見て、タカヒロは面倒だと思った。
頭が良いのは美点であるが、回りすぎて損得をしっかり計算しすぎるのも問題である。
それは大きな利益を取り逃す事にも繋がる。
この場合、頭が良いのはありがたくもあるが、それ以上に勢いのある人間であって欲しかった。
問題点も理解しつつ、利益のために猛進してくれる方が都合がよい。
だが、そんな事求めてもしょうがない。
相手が自分の思うとおりの人物である事など滅多にないのだから。
「まあ、単純に面倒くさい」
相手に下手な嘘は通じないと判断し、タカヒロは正直に、率直に自分の考えを口にしていく事にした。
「そこまでやるとなると、人も物も集めなくちゃならん。
けど、それだけの力が俺にはない。
その点、あんたはもうそれなりの規模の人間がいる。
だから、あんたにやってもらった方が得だと判断した」
理由の一つがこれであった。
やれば確かに利益はあるだろうが、それをやるには人手が必要になる。
それも、それなりの腕を持つ者達がだ。
タカヒロではそんな人数を集める事は出来ない。
こういった事には、土台となる人間が既にある程度集まってる事が絶対条件である。
「ここの義勇兵は結構な人数が集まってる。
これだけの人数がいれば、突破も出来ない事はない。
それでも人数が足りないだろうけど、声をかければ集まってくる奴もいるだろう。
寄らば大樹の陰だ。
大所帯だったら安心感もあるからな」
数が全てで無いにしても、数が揃ってればそれだけで安心感を得る事も出来る。
参加する方だって、どうせ入るなら安定していそうな大手を狙う。
その点、この義勇兵駐留所にいる集団は、それなりの大所帯である。
新人を募集すれば我こそはと集まってくる連中もいるだろう。
「人数が多ければ、手広くやれるしな。
モンスターの掃討をしながら、運搬の馬車につける護衛だって捻出出来る」
規模の大きさというのはこういう所でも便利である。
人手を割くことが出来るので、様々な事を同時進行しやすい。
もちろん限界もあるだろうが、零細の所よりは応用がきく。
「それに、あんたらが護衛をやるって言えば、名乗り出る行商人だって出て来るだろうし」
「行商人?
そいつらまで使うつもりなのか?」
「物を運ぶなら協力してもらった方がいいだろう。
わざわざ馬車や御者を用意するのも面倒だし。
それに、買い付けとかをどうやってするのかって問題もある。
餅は餅屋だ。
商売の事は専門家に任せておけばいい」
これも当初から考えていた事ではある。
わざわざ義勇兵から運搬担当者を割くのではなく、既にそれを生業にしてる者達を引きずりこもうと考えていた。
その方が、準備に時間がかからない。
「そういう連中を引きずりこむにも、実績と信用が必要なんだ。
俺達じゃそれはないけど、あんたらだったら安心して護衛を任せられるだろうしな」
信用と実績というのは無視出来ない。
今までやってきた事を参考に、周囲の人間は評価する。
モンスター多発地帯に出向いてモンスターと戦い続けてるというのは、大きな宣伝材料になる。
そんな者達が護衛につくというなら、行商人も安心出来るというものだ。
「そんなわけで、俺達でやりたくても出来ない。
だから、やってくれそうな、実現出来そうなあんたらに話をもってきた」
「なるほど」
これには頭領も納得した。
確かに零細には出来ない仕事である。
ある程度以上の規模と、今までの実績があればこそ成り立つ部分がある。
だが、それだけで頭領は納得しなかった。