193回 自分じゃ出来ないから他者をけしかける事に 3
「あのな、あそこは……」
「モンスターの巣だ。
そうなってる。
だから誰も近寄れない。
けど、手に負えない程じゃない」
そう言ってタカヒロは再び頭領の言葉を遮って話を続けた。
モンスターが出現するのは、国境と呼ばれる地帯とその周辺だけではない。
国境をすり抜けて侵入して来たモンスターが集まり、国内に拠点を作ってる事もある。
こういう場所は巣と呼ばれ、危険地帯として近づく事を禁じられている。
ただ、たいていの巣は軍や依頼を受けた義勇兵達が壊滅させるので、それほど多く存在するわけではない。
なのだが、もともとの規模が大きかったものは迂闊に手をつけられずに放置される事もある。
対応が遅れて巨大化したという場合もある。
そのどちらにせよ、巨大化したモンスターの巣を破壊するには、大規模な集団が必要になる。
たいていの場合こういった巣は、中から出て来たモンスターを倒して多少は間引きをしつつ様子見となる。
いずれ軍が派遣されてモンスターを掃討する事にはなるが、それまでどうしても時間がかかってしまうのだ。
国境近くの義勇兵駐留所と隣国への国境の間にあるのも、こういった巨大な巣である。
あるいみ理想的な稼ぎ場ではある。
一定の数のモンスターがいて、なおかつ無制限に出て来るわけではない。
それだけに、適度に狩っていれば定期的な稼ぎが出来る。
この駐留所にいる者達も、それを利用してモンスターで稼いでいた。
国境が近いからそちらから流れて来るモンスターもいるので、両方合わせれば結構な稼ぎになる。
その分危険も大きく、一定以上の腕がないとやっていけない。
だが、危険と稼ぎが比例する義勇兵にとって、こういう場所は絶好の稼ぎ場と見られていた。
その稼ぎを提供する巣を突っ切っていけというのだ。
タカヒロの提案は無謀というしかない。
「そりゃあ、モンスターをどうにか出来れば何とかなるだろうけどな」
現実的に考えれば、それは無謀と言えるものだった。
確かにモンスターの巣にいる数は限界がある。
続々と流れ込んで来る国境方面と違い、居住出来る数に限界があるからだ。
広さが一定である以上、一定の数しか存在出来ないのは道理である。
だが、だからといって楽に相手が出来る数というわけでもない。
不可解なほど繁殖力が旺盛なモンスターは、一気に殲滅しないとすぐに数が増える。
だからこそ、適度に繁殖させておけば核を手に入れるのに好都合ではある。
「けどよ、どうやってそこを突っ切るってんだ?」
殲滅が難しい、一定の数が確実にいる場所である事は間違いはない。
そんな場所を突破しろというのは自殺行為に等しい。
だが、タカヒロは事も無げに言い切る。
「義勇兵を集めればいい。
数が揃えば突破は出来る。
核も手に入れる事が出来るし、一石二鳥だ」
「あのな……」
「おまけに密輸で稼げる。
まあ、稼ぎはともかく、物を手に入れなけりゃ俺達は干上がっちまう。
いずれそのうちな」
「むう……、そりゃまあ、そうだけど」
「だったら、手段を選んでるわけにはいかねえ。
集められるだけの義勇兵を集めて、突破を計る。
いっそ、巣に入ってモンスターを狩る。
全員でかかれば出来ない事もないだろ」
「そんな数を、集められるのか?」
「やってみなけりゃ分からん。
正直きついとは思うが」
兵士の募集に応じた者が多く、そんなに残ってないのは確かだ。
新人が穴埋めをしてるが、それもまだレベルが足りない状態である。
「けど、数を集めりゃどうにかなるだろ。
新人でもそこそこの腕の奴もいるだろうし。
巣のモンスターも全部が危険ってわけじゃない。
大勢で倒せばそれなりの結果にはなるだろうさ」
その分経験値も稼ぎも減るだろうが、倒さなくちゃならないモンスターはそれなりの数にはなる。
その数で帳尻は合うだろう。
「レベルアップもはかどるし、周旋屋だって協力するだろうさ」
確証はないが、そうなる可能性は高い。
周旋屋も新人が使えるようになるのを願ってるのだし。
「とにかくかき集めて、巣を攻略しよう。
それが出来なくても、輸送路を確保しよう。
あのあたりは、元々人が住んでた地域だ。
崩れてる所もあるだろうが、道だってある。
野原を進むよりは確かだ。
おまけに関所もないから通行料はとられない。
役人もいないから、物資を強制的に買い取られもしない。
運んできたものは、あんたらの言い値で売れる」
なお、物資の強制買い取りというのは、前線におくる物資の確保手段である。
どうしても足りない物資を手に入れようと、攻勢推進派は国庫の財貨を蕩尽していた。
これもまた後に攻勢推進者達が根絶やしになる理由である。
「なんなら、あそこにある町をぶんどっちまえ。
そこに市場を作っちまえ。
そうすりゃ、あんたが、あんたらが町の支配者だ。
通行料も取らない、物資が集まってくるなら商人だって寄ってくる。
そうなりゃ金も動く。
全部あんたらで仕切っちまえ」
焚きつけるように言うタカヒロの言葉に、義勇兵の頭領と幹部達は乗り気になっていった。