192回 自分じゃ出来ないから他者をけしかける事に 2
近隣にある義勇兵駐留所。
そこに集ってる義勇兵達を束ねる男は、タカヒロと向かい合って座っている。
周囲にはこの駐留所の幹部らしき者達が集まってもいる。
それに対してタカヒロは、本人と付き添いが二人。
数の上では負けている。
それが心理的な圧迫になってはいた。
別に喧嘩をしにきたわけではない。
相手と手を取り合えないかを打診しに来ているだけである。
だが、交渉事というのはどうしても駆け引きや利害が絡む。
自分が少しでも有利な条件を得られるよう、相手を圧迫するのも手段の一つだ。
そのつもりがあるのかどうか分からないが、義勇兵の頭領はぬかりなく人数を集めていた。
タカヒロが不穏な事をするのを警戒しての事かもしれないが。
だが、それでもタカヒロは気を強くもって交渉に臨んでいく。
「物が足りないのは分かってると思う。
この調子じゃあんたらも俺らも干上がっちまう」
「まだるっこしい事はいい。
要点を言え」
状況確認からしていこうと思ったタカヒロであるが、それを頭領は遮った。
言われなくても分かってる事だろうし、必要な事でもないと考えたのだろう。
あるいは、こうして相手の言葉を遮る事で、主導権は自分にあると示したかったのかもしれない。
他にも何らかの意図があったのかもしれないが、タカヒロは出鼻をくじかれた形になる。
だが。
「……そう言ってもらえると助かる」
気にするそぶりもなく本題に入っていく。
出来れば余計な口上を入れずに目的だけ達成したかったから都合が良い。
そんなタカヒロに頭領は、少しだけつまらなそうな、機嫌を損ねたような顔をした。
思った通りに進まないのにすねたのかもしれない。
「ここからなら、隣の国まで行ける。
通過しなくちゃならない関所もない。
距離はあるが、出来ない事は無いだろう。
そこで、一気に隣の国までいって、必要な物資や食料を買ってくる」
タカヒロの提案はこれだった。
聞いてる頭領と周りにいる幹部らしき者達は呆れた。
「あのなあ……」
「ああ、言いたい事は分かる」
今度はタカヒロが頭領の言葉を遮った。
「確かにここから隣の国まで遮るものはない。
少なくとも関所なんかはない。
それどころか人っ子一人いない。
けど、それが難しいのも分かってる。
何せ、モンスターの居る所を通らなけりゃならないからな」
頭領が言いたかった事はまさにそれだった。
確かに隣の国まで関所などはない。
人間だって住んでいない。
だが、それはその間にあった地域がモンスターに蹂躙されてるからだ。
国境地帯というわけではないが、国内に入りこんだモンスターが屯している。
だから人目につく事も無い……それは確かである。
なのだが、そこを突っ切っていくとなると自殺行為としか言えなかった。
「それをやれってのか?」
「もちろん」
事も無げにタカヒロは言い切った。
「出来ないわけがない」