191回 自分じゃ出来ないから他者をけしかける事に
「何とか終わってくれたか」
攻勢が終結した事を聞いたタカヒロは、喜びよりも虚脱感をおぼえた。
力みが消えたというか、呆然となったというか。
とにかく、心配事が消えて、それによって張り詰めていたものも無くした。
一瞬だけ頭が真っ白になっていた。
だが、これでもう無駄な努力はしなくても良くなった。
それがありがたかった。
「苦労したよなあ」
その声に、周りにいる連中が同調していく。
「本当っすよ」
「きつかったのお」
「まさかこうなるとは」
「やってらんねえよ」
何一つ好意的な声が聞こえてこない。
それが自分ではなくおかれた状況とせねばならなかった努力、それらを強いた連中向けであるのが救いであった。
話は、まだ前線からモンスター領域への攻勢が続いていた頃の事になる。
物価の上昇とそれに伴う欠乏。
いや、欠乏がもたらしてる物価上昇が正解である。
必要な物資がそこにないという状況に国が陥ってる。
物資が強引に買い取られて前線に送られてるからだが、その被害を一番受けてるのは庶民である。
本来なら生活に困らないだけの産物があるのに、それが攻勢に持ち込まれている。
それによる騒動、そして略奪を危惧していたタカヒロは、回避するために多少なりとも行動せねばならなかった。
「密輸?」
話を持ちかけられた者達は面食らった顔をしていく。
だが、提案したタカヒロは真剣な表情で語っていく。
「ああ。
どうせこのまんまじゃ食う物も無くなっちまう。
そうなる前に何とかしねえと」
「けど、どうするってんだ?」
言いたい事は分かるが、具体案がない。
「何か方法はあるのか?」
タカヒロの村の近くにある義勇兵駐留所。
そこを仕切ってる義勇兵の頭領は、その先を聞いていく。
(よし)
まずは成功、とタカヒロは安堵した。
にべもなく断られたらどうしようと思っていたが、それは杞憂に終わった。
何の興味もない、あるいは乗り気じゃなければここまでこない。
話を聞く事もなく叩き出されていただろう。
不穏な話を持ってきたという事で殺されていたかもしれない。
だが、そうはしないという事から、相手に多少の意欲があるのを感じ取る。
あとは提案を語っていくだけである。
それで相手がのるかどうかは分からない。
まだまだ勝負はついてない。
しかし、それでも勝負に出られる状況にまで入っていけたのは上出来と言えた。