19回 彼女視点の色々な思い
(どうしよう……)
驚いたり慌てたりしてるのはミオも同じである。
奴隷商人に売り飛ばされ、それをタカヒロに買い取られた。
四年前に町に出て行き、今回里帰りしてきた年上の幼なじみ。
それがどういうわけか大金を払ってミオを身請けした。
それも信じられなかったが、何より驚くのは、自分が奴隷になってしまったという事である。
なんで…………と思いもするが、それも仕方ないとも思う。
あの親ならば何も不思議はないと納得してしまう。
子供の頃からそういった育てられかたをされてきた。
いずれは外に出るからと、つまりは売り飛ばす事を前提にした話をしていた。
姉がそうであったし、そのうち自分にも順番がまわってくるだろうとは思っていた。
それがやってきたというだけである。
失望も落胆もしたが、それもそれほど大きなものでもなかった。
突然そうなったのではなく、もともとそうなる予定だったのだから、それほど衝撃も大きくはない。
分かっていても何がどうなるわけでもないので、無駄にあれこれ悩むのもばからしいと思ってもいた。
それが突然覆った。
どういうつもりなのか、タカヒロが売られたミオを買い取った。
タカヒロが帰郷したのはミオが売られた直後であったので、ミオの親に直接交渉は出来なかった。
なので、奴隷にせずに金を出して解決するという事は出来なかった……とタカヒロから聞いた。
なんでそんな事をするのかと思いもした。
お人好しにも程があると思った。
(もともとそういう所はあったけど)
一緒にいた期間はそれほど長くはなかったが、同じ村にいればそれなりに接点はある。
そうして接していて分かる事だが、タカヒロは人がよい。
悪く言えば間抜けといえるくらいである。
簡単に人を信じるし騙される。
頭が悪いわけではない。
聡明なところ、村の大人や長老でも知らないような事を知っていたりもするくらいだ。
なのに、どうも人が相手の時にはそれが働かない。
疑うという事を知らないかのように振る舞う事がある。
賢くはあるが狡さというものがない。
そして、妙に突っ張る所がある。
えてしてそれは、道義や道徳といった事に関わる場合だった。
(今度のも、そういうのが出て来たんだろうけど)
それはミオが売られて程なくやってきたタカヒロの言葉で分かる。
「金は出すから、そいつを解放してやってくれ」
タカヒロはそう言って奴隷商人に掛け合ったのだ。
聞いていたミオは耳を疑った。
居合わせたミオの親もだ。
赤の他人がなんでそんな事を言い出すのかと。
これには奴隷商人も驚いていたようで、いったい何を言ってるのだと尋ねたほどだ。
それでもタカヒロはどうにかミオを解放しようとあれこれ話をしてた。
だが、奴隷商人も商売としてやってる以上それは出来ないと突っぱねていた。
「金の問題じゃない。
商売人としてのしきたりだ」
それが奴隷商人の主張だった。
商売としてやってる以上、定めてる以外の取引は出来ない。
例外を下手に作れば、それがもとで商売が崩壊しかねないと言って。
「どうしても欲しければ、こいつを買い取れ。
それ以外でお前にこれを差し出す事は出来ない」
ただ、買い取るというなら他の誰にも売らない、こいつはお前に売るとも言っていた。
それが奴隷商人としての最大限の譲歩なのであろう。
最終的にそこに話は落ち着き、タカヒロは町までついてきてミオを買い取った。
それを見ていて、ミオはこんな人間がいるのかと思った。
感心や感動をしたというわけではない。
どちらかというと、呆れたといったものに近い。
だが、それでも自分がとんでもなく悲惨な目にあう事はなくなったとも思った。