187回 生活に及ぶ問題 4
「あと、一応備えておこう」
「何をっすか?」
「襲撃だ」
「……モンスターの動きが活発化するとでも?」
「それもあり得る」
もし攻勢が失敗し、国境の兵力が激減したらそれも考えられた。
今でも国境を通過して浸透してくるモンスターがいる。
それらが増加してくる事は容易に想像出来る。
だが、タカヒロが心配してるのはそれではない。
「それよりも、人間が心配だ」
「……え?」
「さっきも言っただろ。
物が無くなれば略奪だって起こるって。
俺達が狙われない可能性は無いぞ」
むしろ、狙い目かもしれなかった。
レベルがそこそこ高い義勇兵とはいえ、人数は少ない。
しかも、女子供の人数が多くなっている。
それらを守りながら戦えるかと言われれば疑問があった。
もし一定以上の数が襲いかかってきたらひとたまりもない。
「武装してる集団は俺達だけじゃない。
周りの義勇兵が敵に回る事だってありえる」
「それは……」
「最悪じゃねえか」
「そうだ。
だから、そうならないように備えておかなくちゃならない」
自分達が生き残る為に、あらゆる対策は講じておかねばならない。
今、一番怖いのはモンスターではない。
人間なのだから。
「でも、こんなのがいつまで続くんですかね」
「さっさと終わってくれりゃあいいけど」
「それは分からないな」
タカヒロにもそれは予想が出来なかった。
曲がりなりにも政府(というか議会)が決定した事項だ。
そう簡単に終わるとは思えない。
だが、どこかで終息するのも確かだ。
それが成功であろうが失敗であろうが。
「まあ、そんなに長くはかからないかもしれん」
「へ?」
「そりゃまたどうして?」
「こんな無茶、長く続けられるわけがない」
生活に影響が出るほど問題が発生してるのだ。
こんな状態を長く続けたら庶民がまいってしまう。
それを統治する領主とて、自分の領地が疲弊するのを黙ってみてるわけがない。
何らかの行動に出るとは思った。
「一年くらいで決着がつくかもな」
それは、国家や政府の活動としてみれば短い期間である。
だが、一般的な人々の生活を基準にすれば長い期間でもある。
「一年っすか」
「そんなに……」
「嘘だろ」
タカヒロの同行者達から嘆き声が上がった。
今と同じ状態が一年も続くのなんて堪えられなかった。
「まあ、そうなる前に、密輸とかが流行るだろうな」
略奪してくるよりは、関所などを通さないで独自に物資を流通させる者達が増えるだろう。
表に出したら軍や政府に強制的に買い取られるから、その目を避ける事になる。
そして闇市が開かれ、表とは違った相場が作られていく。
「出来ればそっちの方がありがたいよ」
まがりなりにも物資が流れ込んでくるのだから、生活に困る者は減るだろう。
そうなれば、略奪してまで物資を得ようと考える者は減るはずだ。
もちろん、売り物を近隣からの略奪で賄うような奴も出て来るだろうが。
それでも、まだもう少し穏当に、物資のある地域からの密輸でどうにかしてくれればと思った。
(たぶん、そっちの方が手間もかからない……よな)
略奪とどちらが楽かというのは悩ましいところである。
だが、出来れば穏当な方に落ち着いてもらいたかった。
タカヒロのこの漠然とした予想は概ね当たる事になる。
無茶と無理を重ねた攻勢は一年と続かずに終わる。
そして、それを推し進めた者達への糾弾と制裁が始まっていく。
全ての問題が片付くまでには更に時間がかかる事になるが、それでも当面の問題はそう遠くない未来で決着がつく。
しかし、それまでの生活が苦しいものになるのは避けられない。
国のあちこちから怨嗟の声があがるようになる。
それは事を起こした張本人達へと向かっていく事になる。
だが、この時点でそれを予想出来た者は多くはない。
タカヒロもこの攻勢がもたらした物事が、どんな結末に向かっていくかかまでは読めなかった。
取り巻く状況説明のためにこんな事を書いてる。
そして、こんな事を書いてる最中が一番筆がのってるという。