186回 生活に及ぶ問題 3
「まあ、まだ買えるだけマシなんだろうけど」
どうにか核を換金し、食料などを買い込んだタカヒロはため息混じりに漏らす。
それを聞いていた仲間は、
「本当ですか?」
「これが?」
と現状に疑問を抱く。
売却して得られる利益は以前と変わらないか、若干だが下がってる。
なのに手に入れられる食料は減っている。
これの何処がいいのかと彼等は思っていた。
それでもタカヒロは、「そうだ」と答えた。
「まだ金を出せば買えるからいいよ。
もっと酷くなったら金なんざ何の意味もなくなる」
「どういう事ですか?」
「金を出したって売ってくれなくなるんだよ。
金に何の意味もないからな」
物価上昇というか、物資不足、あるいはインフレの究極状態であろうか。
物価高騰が続いた果てには、金銭での取引の消失が待っている。
あるのは物々交換。
そもそも物が無いのであれば、売るに売れない。
手元にある物を売るにしても、金銭ではない即座に使える何かであるのが望ましいとなる。
そうであるならば、物々交換の方が少しはマシな取引方法となるだろう。
だが、それさえもまだマシな方である。
「こんな状態が続けば、そのうち略奪が始まるぞ」
そもそもとして物資が無いのである。
そんな状態が続けば、生き残る為に略奪が始まる。
生活に必要な分だけでも物が流れればいいのだが、それが出来るかどうかは悩ましい。
何せ、攻勢という名の戦争が始まっている。
軍勢を養うためにも今後も物資は必要とされるだろう。
その物資を調達するために、国内からでも買い付けは行われる。
足りなくなれば国外からも買い取るようになるだろう。
そうやって物資不足状態が続くならば、いずれは欠乏と飢餓に陥る者が出て来るだろう。
そのまま大人しく飢え死にするほど往生際の良い者達ばかりではない。
「下手すりゃ戦争だ」
モンスターとでも、外国とでもない。
同じ国の人間同士で殺し合いになりかねない。
そこまで行くまでに、事態が終息してもらいたかった。
だが、その為に何が必要なのかを考えると、先行きは暗いと言える。
(この戦争が終わらないと、無理だろうな)
モンスターへの攻勢がいつ終わるのかは明確になってないのだ。
普通、戦争とはある程度考えて行われるものである。
いつまで、どこまでを最大限として、どういった終わらせ方をするか。
それらを考えておくものだ。
想定通りにいかない事もあるが、何も考えずに行うのは愚の骨頂としかいいようがない。
突発的な衝突などはやむをえないとしても、落としどころをどうするかを考えておかねばならない。
なのだが、この攻勢にそれがあるのかどうか分からない。
何せ、明確な終わりが見えないのだ。
モンスターの領域から人類の版図を取り戻すとは言ってるが、それだけだ。
どの地域まで取り戻すのかが明確ではない。
それは、終わりが見えないという事でもある。
(本当にどうするんだろ)
悪い予感がする。
それがおさまる気配がない。
先行きに不安を感じながらも、タカヒロはこの事態が出来るだけ早めにおさまってくれるよう願った。