185回 生活に及ぶ問題 2
物価上昇、インフレの恐怖はすぐそこまで迫っていた。
さすがに現地の領主は、自分の領内の関所の通行料を一時的に免除した。
下は市町村単位で、上は都道府県単位で。
領民が飢え死にする可能性を考え、彼等は収入を幾分諦める事にした。
だが、それなりに広い範囲とはいえ、都道府県内だけで物資の流通が円滑になっても意味が無い。
全体的な物資不足を均す為には、より一層の物資が必要だった。
それは領外に求めねばならない。
なのだが、さすがにその外まではこの行動に追随しなかった。
他の領地の領主からすれば、関所の通行料は貴重な財源である。
それを一時的とはいえ免除するのは財政に影響が出すぎてしまう。
これらがいたずらに物資の流通を妨げ、無駄な物価高騰を招いているのだが、そこまで頭が回る者はいない。
皆、自分の懐が大事である。
むしろ、大量の物資の運送があるというのを絶好の好機と見ていた。
通行料で儲けられると。
しかし、そんな事も言ってられなくなる。
タカヒロ達の居住する領主の近隣から、商人は送り込めるだけの物資を送り込んだ。
通行料がかからないのはそこだけしかないのだから当然である。
そうなれば、近隣領主達の領地でも物資不足になる。
通行料を取っても、物資の値段が跳ね上がってしまっては意味がない。
やむなく近隣領主も一時的に通行料を免除していく事になる。
これらは、いつも通行料に泣かされてきた商人の意趣返しでもあったと言われている。
おかげでタカヒロ達の住む場所での物価高騰はギリギリのところで抑制された。
物価は上昇したままだが、ある一定のところまで高くなったところで留まっている。
庶民でもかろうじて買えるというあたりだ。
一般庶民が不満を抱くのにさして時間はかからなかった。
これは買い手だけでなく売り手も同じであった。
物価が上昇するなら売り手には最高だろう、というわけにはならない。
原価が高くなれば利益がその分薄くなる。
物価がどれだけ高くなっても、それでは意味が無い。
そして、高くなれば買い手がつかなくなるという問題もある。
その為、高くなってる原価に対して、販売価格は抑え気味にせざるえなくなった。
意外と利益は出てない。
利益率で表すと、もっと値段が落ち着いていた頃よりも下がってるくらいだ。
そして、絶対的に粗利益も以前ほど多いというわけでもない。
タカヒロ達とてそれほど儲かってるわけではなかった。
モンスターを倒して核を手に入れてるタカヒロ達は、さほど原価がかかってるわけではない。
しかし、売ろうと思ってもそれほど利益が出てるわけではなかった。
皮肉にも、この時期に限れば比較的流通量が安定しているのだ。
値段が上がる要素がない。
モンスターの出現数が流通量を決めるのが核である。
そのモンスターはだいたいいつも通りに出現している。
流通量が上下するというわけではなかった。
一応軍に買い占められてはいるが、極端に流通量が下がってもいない。
値段はあまり上下しない。
しかも、生活必需品というわけではない。
食料などより優先順位は低い。
その食料などの値段が高騰してるのだ。
買い手側に核まで手を出す余力がある者が少なくなっている。
値段はさほど変わらない、多少は高くなっていても、買い手がつかなければ利益は出ない。
それでも必要としてる者達は買っていくが、利益はいつもとさして変わらなかった。
これは他のあらゆる商売でも言えた。
結局この状況で得をしてる者はほとんどいなかった。