184回 生活に及ぶ問題
「それにしても」
出兵が実行され暫く経った頃。
タカヒロ達はそれがもたらす問題に直面していた。
「物価が上がってきてるな」
若干ではあるが、様々な物の値段が上がってきている。
出兵に伴って必要な物資をかき集めてるからだろう。
物資が優先的に政府に買い上げられている。
そのため、他に回る物資が減っている。
特に国境近辺は出発地点から近いために真っ先に買い占められている。
そうやって出来た穴は他の地域から流入する物資が補っていくのだが。
それまで時間がかかってしまう。
事前に分かっている事であっても、どうしても対応しきれない。
一度に運べる物資の量は限られるからだ。
それに、国内の他の地域から持ってくるにしても時間がかかる。
いずれは物資不足とそれによる物価上昇も落ち着きはするだろう。
だが、それまでどうしても時間がかかる。
「困ったな」
食料を村の外からの買い付けで補ってるタカヒロ達にとっては痛手だった。
問題に直面してるのはタカヒロ達だけではない。
町や近隣の村でも似たような状態に陥っている。
農村であっても、強引に食料などを買い取られていったので、一時的に食糧不足になってしまっている。
一応金銭による補填はなされてる。
代価は払っているのは確かだ。
それで足りなくなった分を買い足せれば、問題はそれほど大きくはならないだろう。
だが、既に述べたように、即座に物資が出回るというわけではない。
通信手段が限られてるので、商品の流通状態が知れ渡るまでに時間がかかる。
大手の商会などであるならば、魔術機具を用いた通信機があるので足りない地域に即座に物資を流しはする。
だが、それとて輸送手段が馬車しかないのだから限界が出てきてしまう。
一度に運べる量も、運送速度も現代日本に比べれば小さい。
連絡が届いた物資が届くまでにどうしても時間がかかる。
更にいえば、国内至る所で物資が買い上げられていたので、必要な物を集めるのも大変な事になっている。
品不足による物価上昇は国境近くの地域だけの問題ではない。
全体的な物資の状態を把握してる商人などは、全体的に物価上昇に陥るだろうと予想している。
その為、国外などに買い付けに走ってるほどだ。
だが、それすらも焼け石に水という状態になりかねない。
動かす軍勢の人数は千人単位である。
それらを賄うための物資は大量に必要である。
それらに取られた分を補うとなると、これまたとんでもない量が必要になっていく。
加えて、国内の街道にはあちこちに関所がある。
この関所を通る度に通行料を支払わなくてはならない。
これは街道の維持費だったり、各地の領主の収入になっていたりする。
中央集権とはほど遠い、地方ごとに独立してるようなこの世界では、こういったものが流通を阻む。
当たり前だが、関所の通行量の分だけ商品の値段に上乗せされる。
物が足りなくなった地域に商品をもっていこうにも、関所をくぐる数が多くなればバカみたいに値段が跳ね上がってしまう。
そうなってしまったら、一般庶民には手の届かない値段になってしまう。
商人としても、これでは売るに売れないので、流通量は必然的に抑え気味になってしまう。
馬鹿げた話だが、隣りの領主の所には食料が山積みなのに、こちらの領地には米粒一つない、という事が起こってしまう。
滞りなく物資が流れていけば起こらない飢餓が発生する事もありえた。
実際、タカヒロ達のいる地域ではそれが起こる可能性が出ていた。