183回 不穏な情勢 4
大臣、そして議会の議員達の中で辞職者が相次いだ。
また、高位高官の官僚にも同じ事が起こっていった。
軍の関係者も同様である。
いずれも、慎重論を唱えていた者達である。
このままでは攻勢の失敗は必至。
そうなれば、責任を取らされる事にもなる。
そうなるよりは、ここで身を引いていた方がよっぽどマシというものである。
自分の反対した事で責任をとらされるなど馬鹿馬鹿しい。
これに伴い、新たな者達が空いた役職にあてられていく。
これには攻勢に賛成の者達が多く従事する事になる。
いずれも、議会や各機関に残った攻勢賛成派による工作である。
これにより、国はモンスターの領域への攻勢姿勢を強めていく事になる。
ただ、このような時期であっても決して変わらない部分もあった。
代表的なのが、王家直属の査察・諮問・調査機関である。
議会や各機関から独立しているこの機関は、主に国家への反逆や損害、外患誘致に内通などに対応している。
その目的はただ一つ、国家の存続である。
これを脅かす存在は、例え高位高官、有力貴族であろうと処断対象としている。
この機関が活躍する事はほとんどないが、動き出したら一切の容赦がないのも知られたところである。
この部分だけは、今までと変わる事無くいつも通りに動いていった。
今回、攻勢が決定された段階で、彼等は即座に行動を開始していった。
攻勢に賛同した者達の洗い出しのために。
王家直属という事は、他の恣意を排除してるという事である。
同時に、王家の命令に従い、他の者達の事を省みる事はない。
従事してる者達も、王家の息のかかった者ばかりであり、どれほど有力な貴族であっても介入は出来ない。
そんな者達であるから、様々な掣肘を受けることなく行動する。
また、この者達の行動を阻むのは王家への反逆に等しい。
面従腹背も含め、協力への拒絶は容赦なく投獄の対象となる。
その場で切り捨てられる事も珍しくはない。
一連の辞職はそれを見越してのものでもある。
攻勢の失敗により責任ある立場の者達は相応の処分を求められる。
そうなれば、また一気に席が空くことになる。
そうなった時に適任者が再び席に着くためにも、今は一度退いておかねばならなかった。
攻勢の失敗は目に見えてる。
役職についてる者達はいずれ粛正される。
その時に役職についていたら、慎重派が潰えてしまう。
そうならないようにするための、一時撤退であった。
このような背景をもつ攻勢が開始されていく。
熱狂よりも不安を大きく抱えたそれは、多くの者達には失敗の象徴に見えた。
喜んでるのは30年前から攻勢を唱えていた者達くらいである。
そんな彼等は、自分達が調査対象として王家直属機関に目をつけられてる事を知らない。




