181回 不穏な情勢 2
反対していた者達はこの決定に憤りを抱いた。
その理由は様々だが、端的に理由を示したのは次の発言である。
「あと30年。
あと30年待てばよいものを!」
そう叫んだのは、攻勢には賛同しているが、まだ時期ではないと主張していた武家である。
彼は武家として戦いを忌避する事はなかったが、勝てない戦争を仕掛けるほど愚かではなかった。
また、国の現状をしっかり理解してもいた。
なので、基本的には攻勢に賛成であるも、慎重派として知られてもいた。
そんな彼の様々な資料や現状を見渡して出てきた結論が、この嘆き声にこもっている。
30年。
それだけの時間があれば、更に国力を充実させ、よりよい条件で攻勢をかけられた。
未だ国内には未整備な部分もある。
まして、先の攻勢での傷も癒えてない。
国境での戦闘も五分五分で、そこを通り抜けたモンスターが国内に侵入してるくらいだ。
そんな状況で、どうして攻勢などかけられるのか。
そんな状態から抜け出すために、あと30年があればという意味である。
そうであれば、人口も増え、田畑を拡大し、産業も成長させられただろう。
国内からモンスターを叩き出し、辺境地帯を居住地として再生させる事が出来ただろう。
国境をモンスターに優勢な状態にして、そこから攻勢をかける事が出来ただろう。
そういう流れになっていた。
どうしても攻勢をかけるにしても、それはまず国内からで良かった。
モンスターとの国境付近に軍勢を繰り出し、そこにいるモンスターを征伐していく。
それだけで充分な成果をあげる事が出来る。
無理して国境の向こう側にいく必要がない。
もしこうしていたならば、結果としてあと30年の準備と同等の結果が出せただろう。
モンスター相手の戦闘も、実戦訓練として扱う事も出来た。
徴募した兵士をそれなりに成長させる事も出来たはずだ。
しかし、これらは全て無に帰した。
準備期間にあてるべき時間が全て台無しになった。
攻勢が大きな成果を上げればまた別だろうが、その可能性は極めて薄い。
集めた軍勢はモンスターの領域に侵攻するには足りない。
国内のモンスター掃討ならともかく、外に出て領域を確保するには不足している。
戦う前から結果は見えていた。
出兵する者達のほとんどは潰えるだろう。
少なくとも、版図を得るという目標の達成は不可能だ。
それをするためには、切り取った場所を守るだけの兵力が必要になる。
それだけの数はない。
押し寄せるモンスターを凌ぐには大量の兵士が必要になる。
それを支えるための防備もだ。
それを用意出来るほどの力は、今回の攻勢で集めた軍勢にはない。
人数も物資も、一人一人の技術レベルも足りない。
これらを考えれば、失敗は目に見えていた。
モンスターを倒して核を得るくらいなら出来るかもしれないが、そこまでである。
義勇兵のモンスター退治ならそれで良いが、国の領地確保はそんな事では済まされない。
義勇兵なら、モンスターを倒してさっさと帰ってくれば良い。
別に場所を確保する必要は無い。
その場に泊まり込む事はあっても、それは広範囲をモンスターが入ってこない地域として確保するためではない。
あくまで一時的な逗留だ。
モンスターを倒してそれなりに稼げばその場から帰還するだけである。
軍勢による占領とはそこが違ってくる。




