180回 不穏な情勢 1
タカヒロが村のこれからについてあれこれ悩んでる頃。
以前から噂になっていたモンスターへの攻勢が行われていった。
兵士の募集にはじまる一連の動きは、予想されていた通り戦争と言えるものへと繋がっていた。
集められた軍勢はモンスターの蔓延る地域へと向かい、人類の版図を復旧させるべく活動を開始した。
しかし現実は厳しい。
もともと兵力を募集しなくてはいけないほど人数は足りてなかった。
そもそもとして攻勢をかけるほどの余力もない。
せいぜい、モンスターとの接触面に貼り付ける人数を増やすのがせいぜい。
それにしたって、増加した兵士を養うだけの余裕がない。
軍とは、国力に応じた規模しか養えない。
他のあらゆる組織や集団がそうであるように、軍も例外ではいられない。
今回の攻勢は国力ギリギリどころか大きな負担を国にかけてしまっている。
攻勢が成功して版図が増えれば良いが、そうでなければ損失が大きすぎて割に合わない。
なので、まっとうに考える事が出来る者達は、この攻勢に反対していた。
それは30年前と同じである。
だが、その頃と違い、現在はそういった声はさほど多くはなくなっていた。
それが悲劇の幕開けとなる。
30年前に攻勢を唱えた者達が社会の中心に居座るようになったのがまず大きい。
これにより庶民の声というのがやたらと大きくなった。
如何に王侯貴族が治める世界とはいえ、民の声を完全に無視する事など出来ない。
それらがまず、世間の流れを主戦論に傾けてしまった。
これに呼応したのは、一部の貴族と武家である。
役所や軍を自分達の食い扶持提供機関くらいにとらえてる連中が声をあげた。
失った領土を奪還し、国と人類の居場所を取り戻すのだ────お題目としてはありふれたものである。
これらは主に、役職など与えられない貴族や武家の末っ子達から上がっていった。
そんな声を市井にいる攻勢・主戦を唱える連中がくみとった。
一部とはいえ支配層がこういった意見を出し始めたのだから面倒は増えていく。
貴族や武家の中にも30年前の攻勢を唱えた連中がいたのも大きい。
それらも政治の中枢あたりに入り込み、攻勢を支持していった。
様々な暗躍があったのだろう、慎重派が大勢であったはずが、それも次々に静かになっていった。
政策を決定する議会(貴族のみであるが)で議決がなされた時には、僅差で攻勢が可決してしまった。
これにより、無謀と言える攻勢が動き出す事になっていく。




