179回 何はなくても平凡な日常こそが一番落ち着く
「それと、魔術の方はどうなってる?」
育成してるものの一つについて、気になって尋ねてみる。
村というか義勇兵集団としても欲しい人材の育成はどこまで進んでるのか尋ねてみた。
そろそろ身につけていても良い頃合いである。
それについては、
「あともう少し、春には身につけられるみたいです」
という報告を受けた。
膨大な経験値が必要なだけに、簡単に成長は見込めない。
それでも、もうそこまで迫ってきていた。
2年3年という時間を覚悟していたが、過ぎてしまえば一瞬に思える。
「これで魔術師がもう一人か」
感動もひとしおだ。
とはいえ、魔術が使えるようになるだけでは意味が無い。
ここから更に経験値を稼ぎ、実際に魔術を身につけていかねばならない。
今回出来たのは、魔術の素養を身につけただけ。
実際に魔術を発現させるためには、技術レベルをあげるように個別の魔術を身につけていかねばならない。
実際に魔術師として活躍が見込めるのは更に一年くらいの時間はかかるだろう。
だが、それでも魔術師が増えるのは大きな利点である。
また、懸念されていた医者の方も目処が付いてきていた。
既に技術レベル8に至ってる医者は、ちょっとした怪我や病気があっても対処可能としている。
また、何かあったときのためにと薬なども集めている。
余程の事がなければたいていの事はどうにかなるだろう。
ただ、この世界は科学的にそれほど発展してるわけではない。
治療手段もその分限定される。
この部分も、可能ならば発展させたいものだった。
もっとも、さすがに過去の記憶を頼りにしても、その為の手段は見いだせない。
専門的な知識や技術に関わる部分ではお手上げ状態である。
もっと全体的に、それこそ社会全体が改善されていかねばどうにもならない。
その為の道しるべとして、記憶にある事を記録しておくべきかとも思うほどだ。
やがてそれを見た者達が、それぞれの技術分野で頑張ってくれる事を期待して。
様々な発展や進歩、これからの期待と諦めが入り交じる。
そんな中でタカヒロが注目してるのは我が子の成長であった。
なんだかんだ言ってこれが一番気にかける事項である。
寝てるだけだったのが、はいはいを憶えて驚き。
たどたどしく、「とーさん」と言われて驚き。
日に日に大きくなるのにも驚く。
身長も体重も本当によくのびる。
抱きかかえるのも大変になるくらいだ。
そして騒々しい。
暇な時間が本当になくなっている。
(こればかりはどうにかしたい)
そう思いつつも、家の中で笑いながら近づいて来る子供を抱き上げ、高い高いをする。
こういうのが楽しい年頃なのだろう、息子は楽しそうに笑っていた。




