177回 前世の記憶で世の中を発展させるというほどでもなく 3
「それと、果樹園だけじゃなくて、他のものも出来ないかと思ってる」
「と言うと?」
「そこに小川があるだろ。
そこから水を引いて生け簀を作って、魚の養殖とかも出来ないかと思って」
「……そりゃまた」
「出来るのか?」
タカヒロの提案に、居合わせた者達は更に驚いていく。
こちらも、そこにあるものを利用して何か出来ないかと考えての事だった。
溜め池のようなものを造り、そこに水を引いていけば、魚も入り込んでくるのではないかと思ってのものだ。
あとは数が増えれば御の字、というところである。
こちらの方はやり方が本当に分からないので、どうやればいいのか本当に分からない。
だが、こういう事ももしかしたら何かしらの足しになるかもしれないと思っての事だ。
もちろんこの考えも前世の記憶からである。
釣り堀などを思い出し、それと似たような事が出来ればと思ったからだ。
生け簀というのだろうか、これも出来れば村の発展の役に立つかもしれないと思ってだ。
何にせよ、これらもまだ先の話である。
やるにしても来年再来年に完成すれば良いというくらいである。
これからやってくる妊娠出産の連続を考えれば、急ぐ事も出来ない。
今年も既に3人ほど出産予定になっている。
その分、町に出向く者達が増える。
帰って来ても、産まれて間もない赤子とそれを育てる女房がいるので、そうそう家を空ける事も出来る。
当分の間は戦力にはならないであろう。
非難するわけではないが、実働人数の低下は考慮に入れるしかない。
ただ、悪い事だけというわけでもない。
子供の世話というのはかなり大変なもので、その分経験値も結構入る。
命がけの戦闘ではないが、命を預かるというのはやはり大きな事なのだろう。
その経験値は専ら育児関係技術に使われていく事になるのだが。
だが、日常でも子供の世話でそれなりの経験値が入るようになり、レベルアップの足しになる。
苦労は多いが、だからこそ手に入るものもあった。
タカヒロも家にいる間に少しずつ経験値を得ている。
戦闘の分と合わせると、多少はレベルアップが早まっている。
それらは家庭内で使う技術を身につける事に費やしもするが、他の技術の向上にも役立っている。
長い目で見れば、子供が生まれてくるというのは負担だけという事でもなかった。
一時的に戦力は低下しても、後々より大きな成果を期待出来るようになる。
「ま、時間をかけてゆっくりやっていこう」
そう言って締め括る。
提案した全てが実現するわけでもない。
実現するにしても時間がかかる。
それは分かってるから全ては今後の課題としていく。
実現すればいい。
しなくても、何かしらの影響を与える事が出来れば良い。
自分達の生きてるうちは無理でも、将来実現するかもしれない。
それくらいの気長さで考えていく。
でないと身がもたない。
あれもこれも達成しようとしていては、とてつもない労力が必要になる。
出来る事だけをやっていくしかない。
それでも確実に前に進み、発展していけるのだから。




