176回 前世の記憶で世の中を発展させるというほどでもなく 2
「山地なんだし、果樹園とかどうかな」
農業についての農業についての話し合いで、そんな事を提案した。
前世で、そういったものがあったのを思い出したからだ。
この世界にもあるはずなのだが、そういった事をタカヒロは見聞きした事がない。
情報の伝達が限られるせいだろう。
だが、果物などは店先に並ぶ事もある。
数は少ないが、そういったものがあるという事は、栽培方法もあるはずだ。
それをここでも出来ないかと思ったのだ。
言えば農業技術のレベルが高い者が、
「それもアリだな」
と考えていく。
今までは田畑に考えが向かっていたのだが、その思考の枠が取り払われた。
もっと別の形の農業もあるのではないかと考えはじめた。
それに合わせて、もう一つ提案もしていく。
「田畑の方は、そんなに広くないから、担当するのは一人くらいでも充分だと思う。
一人っていうか、一家っていうか。
家業として田畑をする家が一つくらいでどうかとも思ってる」
「それは……」
「まあ、そんなに広くもないけど」
元々農民出身者が多い、というかそれがほとんどであるが、それだけに田畑を持つ事を求める者は多い。
それだけに抵抗や反発をおぼえる者もいる。
だが、山がちな地形である村の周辺で、畑を作るのが困難なのも確かだ。
新たに開墾しようにもそんな場所は無い。
段々畑にするとなると相当な労力が必要になる。
また、村にある田畑を皆で分けたら、一家当たりの収穫高は悲惨なものになるだろう。
そういった事も誰もが分かっている。
「だから、田畑以外で何か収穫が出来ないかなって思ったんだ」
その為の果樹園である。
これは前世のテレビで見たのを思いだしたからだ。
山地で果樹園をやってるのを見た記憶がある。
それを見て、斜面の多いこの村でもそれは出来るのではと思ったのだ。
安直極まりない考えである。
実際にやるとなればどれだけの手間がかかるのかも考えてない。
だが、それは農業技術を持つ者が考えてくれる。
タカヒロはまず提案する。
それがなければ何も始まらないのだから。
「それで、どうなのかな。
出来るならやってみたいけど」
「まあ、無理ではないでしょう。
手間はかかるけど」
農業技術を地道に上げてきた者が言う。
「ただ、やってみないと何が起こるか分からない。
色々と面倒もあるだろうし」
「それはしょうがない」
やってみるまで分からない事は多々ある。
だが、可能性があるなら挑戦してみるべきであろう。
「とりあえず苗木を探してこなくちゃならないですね」
まずは最初の困難である。
種もないのに始める事は出来ない。
それをどうやって入手するかだ。
「周旋屋に売ってるかな?」
どういう伝手があるのか分からないが、様々なものを取り寄せるのも周旋屋である。
作業員に必要な物を調達するためなのだろうが、その手広さは下手な商人も顔負けである。
もしかしたらという期待を込めて、タカヒロは今度周旋屋にかけあってみようと思った。
「あとは、場所ですね。
今生えてる木をどうにかしないと」
「材木や木炭作りを兼ねて、斜面を整理していくか」
今年と来年にかけての作業の一つになるかもしれない。
それと学校というか講堂・集会所作り。
今年の冬も大分忙しくなりそうである。




