175回 前世の記憶で世の中を発展させるというほどでもなく
前世の記憶は便利であっても万能ではない。
この世界より進んだ文明社会の有り様は、確かに今後進むべき姿を示してくれている。
だが、だからといってそれを実現出来るというわけでもない。
当たり前だが科学などの発展段階が違う。
魔術のおかげで一部には日本にあった家電製品のようなものもある。
あるが、それらが大量にあるわけではない。
全体的な文明水準は、江戸時代とかと同等か、下手したらそれ以前の段階なのかもしれなかった。
そんな所に、科学や技術による文明を求めてもしょうがない。
前世の知識があっても、そんなところまで文明を高める事が出来るほどの知識も無い。
タカヒロに出来るのは、この世界にあるものを上手く村に導入する事。
前世の記憶から、進むべき方向性をある程度示す事。
それくらいである。
そして、これが結構大きな成果にも繋がっていた。
考え方の違い、発想の違いというのは大きい。
既に存在してるものであっても、別の使い道を思いつく事もある。
道具や技術の改善でも、この世界には無かった方向性を示すこともある。
技術レベルの高まりと同時にやれる事も増えるし、レベルに伴った発想の拡大もある。
だが、タカヒロが体験してきた文明のありようを伝える事で、発想を一つの方向でまとめる事もある。
それが大きな変化の端緒になる事もあった。
出来るのは提言程度ではあるのだが、それがもたらした変化もあった。
前世の記憶というのはそうしたものだった。
便利な時もあるが限界も当然存在する。
そして村の今後を考えるにあたり、そこにはやはり限界が発生していた。
拡大するであろう村の今後をどうしていくかにあたり、前世の記憶の全てが役立つものではなかった。
あれば便利だと思うものは幾つかあったが、それらを実現させるほどの智慧も知識も技術も資本もない。
個人ではどうにもならない部分はやはり大きかった。
とはいえ、全く無駄というわけでもない。
参考になる事もあり、それを提案する事は出来た。
その程度でしかないが、それがとても大きいのも確かである。
これまで行ってきた提言のほとんどは前世の記憶に基づいていた。
それらが全て有効という事もないだろうが、言うだけ言ってみれば何かが変わるかもと思ってのものだ。
実際、それらがこの世界に新しい何かをもたらした事もある。
存在はしなかったが、魔術機具などを用いれば実現可能なものもあったからだ。
比較的簡単なものから作られていったのは、技術的な手間や開発のための資金の関係上しょうがない。
だが、性能的には大したものではなくても、そういった道具が作業において便利なものとなりはした。
なので、思い出せる前世での事をもとに、タカヒロは出来る限りの提言をしていく。
それを実現出来るかどうかは、技術レベルがどこまで高いかによる。
だが、発想があれば形に出来る可能性はあった。
秋に向かっていく時期の会議において、タカヒロはそんな提言をしていった。




