172回 子供が生まれた万歳では終わらない 2
大変なのは赤子だけではない。
ミオの方にも気を向けねばならない。
産まれた直後はとにかく働かせないこと。
どこかで聞いた「さんごじゅうご」という言葉を思い出しながら、とにかく気を配った。
お産の直後15週──── かけ算九九の「3×5=15」にかけたのだろうと思われる語呂合わせである。
おおよそ三ヶ月あまりのこの間は、重いもの持たせるなという意味であると聞いたおぼえがあった。
体の調子が戻ってないので、無理をさせられないからだろう。
出産直後の疲れたミオを見て、本当にその通りだと思ったタカヒロは、可能な限りミオの作業を減らすよう努めた。
その他、産後に必要な様々な注意事項を、出来る限り聞き集め、書きとめ、出来ることは可能な限り取り入れた。
科学的、医学的な根拠があるのかどうかは分からない。
そこまで医術や医学が発展してない世界なので、どうしても経験則からの教えが大半になる。
なのだが、生活の智慧であるそれらはバカにならないものもあった。
願掛けの類はともかく、実際に健康状態への気遣いなどは参考になるものも多かった。
重ねた失敗から禁止されてることや、成功例から推奨されてる事などなど。
いずれも長い営みの中で見出されてきたものだ。
歴史と十分にいえるそれらは、タカヒロに様々な方法を授けてくれた。
とにかく母親に負担をかけないこと。
いずれ体の調子も戻るが、それまでは無理をさせない。
これを念頭において、あれこれと考えていった。
出来ることなど高が知れてるが、出来ることは形にしていった。
その結果、ミオと赤子は常に添い寝してるような状態になっていった。
床ずれがおこらないように多少は体を動かしはするが、基本的にはそうしてる時間が多くなっていった。
結果として、常にミオが子供を見ていることになる。
一緒にいる時間が長いというのは大きい。
子供に何かあってもすぐに察知できる。
生活も子供に合わせたものに近づけることが出来る。
容易いことではないが、赤子の相手をする上では大きな利点になった。
そして、こうして子供が実際に産まれて育てていって分かる事もある。
直接の育児についてはミオに譲るしかないが、それをとりまく環境の方はタカヒロにも見えた。
とにかく子供を育てるにあたって、人の手が必要になる。
まずはこれだった。
ミオがあまり動かずにいられるのも、周りの女衆がいてくれるからだ。
もしこれが一斉に全員が妊娠したらそれは不可能になる。
授かりものだし、どの夫婦も求めているものではある。
だが、出来るならばある程度順番で産まれてきてくれればと思ってしまう。
全員同時ではなく、毎年交互に出産をしていけるように。
手助けが出来る者を確保するためにも、妊娠してない者がいてくれるとありがたかった。
出来れば、出産は1年2年の間をあけてというのが理想に思える。
産まれた子供がある程度育つまで、というのもあった。
赤子が毎年立て続けに産まれるとなると、その世話も大変になるだろう。
ある程度育てば目を離しても大丈夫だろうが、それまで2年3年はかかる。
そこまで育つまでは付きっきりになるだろうから、出産間隔をあけておいた方が良いのではと思えた。
もっとも、あくまで授かりものである。
こういった考えで産まれてくるものを左右する事もどうかとは思いもする。
だが、現実を考えれば、どこかで抑制も必要になる。
出来るなら、これらが上手くかみ合っていけばと思った。
(言うだけ言ってみるか)
他の連中にもこの考えを伝えていく事にする。
受け入れるかどうかは分からないが、言っておかねばそれこそ何も考えずに行動する事になる。
実行するかどうか、それが出来るかどうかはともかく、一応全員が同じ考えを持っている状態にはしておきたかった。
そうしておけば、それを土台にして全員が同じ事を考える事が出来る。
意思の統一はともかく、抱える情報の共有はしておいた方が良い事である。
それをするも、かなりの手間ではあるのだが。