168回 その時の彼はこんな感じであった
「…………」
無言である。
産まれてきた我が子を見て、最初の対面である。
何を言えば良いのか分からず、そもそもそんな事を考えてる余裕もない。
誕生を告げられた時と動揺に頭の中は真っ白だった。
だがしかし、目はしっかりと子供に向けていた。
産まれたばかりの、赤子という言葉通りに真っ赤に見える我が子に。
最初の印象は「不細工だな-」という大変酷いものだった。
正直なところ、我が子であっても可愛いとはとても思えなかった。
だがしかし、嫌悪感や拒絶反応はなかった。
しわくちゃというか、とても可愛いと思えるような造形はしてないにも関わらず、目がはなせない。
思ったよりは大きく、それでもやっぱり小さい存在以外の全てがどうでも良くなっている。
ただただそこに寝転がってる我が子にだけ目を向けていた。
ただただ感動していた。
見た目に秀麗さなどどこにもない。
そんなもの全く感じる事は出来ない。
だが、確かにそこにいるという存在感。
愛おしいとも可愛いとも全く感じる事は無い。
だが、紛れもなくそこには命があった。
(ああ、なるほど……)
何となく分かったような気がする。
可愛いとか、愛おしいとは全く思わないが、それでいいのだろうと。
そういう感情を抱く人もいるのかもしれないが、自分は違うのだとはっきり理解した。
そして、それが当たり前、少なくとも自分はそう感じる人間なのだと自覚した。
(俺はこいつを────)
その後に続く言葉が浮かんでこない。
適した言葉が全く分からない。
似たようなものは出て来るのだが、そのどれもが似てるようで違う。
近くにまでかすめるようで遠い。
わき起こってる感情を的確に言い表すには何かが足りない。
しかし、自分が何をしたいのか、何をするべきだと思ってるのかは分かる。
無理にそれを言葉にするなら、次のようになるだろう。
義務感────
人間として、先に生まれた者として、何より父として。
目の前にいる産まれたばかりの我が子のために、するべき事をしなければならない。
そう思えてならなかった。
自然と表情が引き締まる。
この先の人生にある様々な事を考えるとどうしてもそうなる。
目の前の子供が育っていくためのあらゆるものを用意していく事になるのだから。
そして、自分がもつ全てを用いて生きていくという事を教えていかねばならぬのだから。
持ちうる全てを伝授し、受け渡していかねばならぬのだから。
物理的に存在するものだけではない。
技術、知識といった無形の財産もだ。
全ては子供がこの世で生きていけるようにするために。
それは子供が可愛いという思いとは違うのだろう。
子供を慈しもうというのとは似てるようで決して同じではない。
だが、それでも子供を育てるという事においては何かが同じだった。
愛して甘やかせてやろうというのではない。
導き示し、やってみてやらせてみせるというものだ。
指導、教導である。
タカヒロは自分が我が子にするべき事はそれだと、何故か明確に感じた。
確信的にはっきりと。
そう言って良いならば、タカヒロはこの時自分の中にそれがあるのを自覚した。
我が子に抱いた諸々の感情を内包するそれを。
そしてこの時タカヒロは、自分の持つ気持ちを表す言葉にようやくいきついた。
────父性に




