167回 そんな周囲の出来事よりも大切で大事なこと
自分達を覆う大きな状況が動きつつあるのは分かった。
だが、それがどの程度自分達に関わり、どんな影響を及ぼすのかは分からない。
何の変化も無いとは思えないが、何があるのかまでは予想も出来ない。
なので、対応しようにも対策が浮かんでこない。
仮に分かったところで、何が出来るというわけでもないのだが。
「国が動いてるんじゃねえ」
義勇兵としてはそれなりに成功してはいるが、所詮小さな村を手に入れた程度。
そんなタカヒロに国家を動かす事など出来るわけもない。
「まあ、何も起こらない事を願うしかないな」
オッサンもそう言ってため息を吐くだけだ。
国の、政治の、それも一部の貴族や武家、そして市井のやかましい連中。
こんな者共によって腕の立つ連中が軍隊に流れているのだ。
嘆きたくもなる。
しかし、何も出来ない。
やるせない思いだけが募っていく。
同じような事が、おそらく国のあちこちで起こってるだろう。
おそらくはまだ準備段階であろうが、戦争に向けての行動の出だしでこれである。
今後、これが進んで行けばより大きな問題も発生するだろう。
その事を思うと表情が渋くなるというものだ。
「まあ、やれるところでどうにかするしかないか」
「そうだな」
嫌になるとぼやいて、オッサンはため息をまた吐いた。
そんな話をしつつも、新人への教育を続けていく。
あちこちの村から出て来たばかりという者はそれなりにいる。
義勇兵として何をすればいいか分かってない連中に、初歩的な教育を施していく。
伝えるのは基本的な事だが、それだけでも生存率が格段に違ってくる。
戦力を激減させた周旋屋としては、それが大事だった。
少しでも多くの腕利きを用意して、持ち込まれる仕事をこなしていきたいのだ。
生き残って使えるくらいになるまで頑張ってもらわねば困る。
成長する時間を短縮する事は出来ないが、生き残ってレベルが上がった者達が増えるのはありがたい。
目減りが少ないのは、今の周旋屋にとっては何よりありがたい事であった。
そうやって新人共を鍛えてる間に、タカヒロは待ち望んだ日を迎えていく。
町にやってきた本来の目的が、目の前にまで迫っている。
町の産婆の家にて、タカヒロは結果が出るのを待つ。
家の奥で頑張ってるミオの無事を願いながら。
そして。
「──男の子です」
奥から出てきた産婆の助手の言葉に、タカヒロは全てが真っ白になるのを感じた。
衝撃が大きすぎて喜怒哀楽の何も発生しない。
興奮すらもない。
ただ、そこにある事実に自分という存在の全てを吹き飛ばされていた。
が、自分を取り戻していくうちに、拳を知らず知らず握りしめる。
「…………よっしゃああああああああ!」
叫び声をあげるまでに、たっぷり5分の時間がかかった。
この日、畑中タカヒロとミオは、父と母になった。