164回 その背景はいかに? 2
「あくまで予想なんだがな」
そう前置きをしてオッサンは話を始めていった。
「国がある程度国力を取り戻し、余裕が出て来てるのは確からしい。
これも聞いた話なんで確かな事は言えん。
が、そういう風になったからこそ、攻勢の話が出てきたようだ」
「まあ、そうなるだろうな」
モンスターが出現した北方の地を中心に、人の領域は大きく削られている。
それを取り戻そうという動きは、モンスターとの戦いが始まってから常に存在している。
だが、一度蹂躙を受けた人類はその力を回復するのに時間がかかっている。
なかなか思うようにそれが進まずに長い時間が経過していた。
それでも、ある程度回復した国がモンスターの領域に押し入り、その地を奪還もしてきた。
今回の攻勢もそういった話の一つとして考える事も出来る。
ただ、攻勢が常に成功するわけではない。
残念ながら、失敗に終わった事例の方が多い。
なので、モンスターの領域に突入するには、入念な準備や計画が必要といわれる。
「けど、そんな事ではおさまらない連中ってのもいるわけだ」
余裕が出来たら欲求が生まれるのは人間の本能なのだろう。
国力が回復し、それなりの力が生まれてきたところで、一部の貴族が動き出した。
「自分達の勢力をのばそうとしてるんだろうな。
国土回復が達成出来れば、それも為しえる」
「だから戦争吹っかけるって?」
「そういう事だ」
よくある話である。
珍しくも何ともない。
そしてこの手の話は、実利や実現性を無視して進みがちである。
「ほれ、こういうのも出回ってる」
渡されたのは、乱雑に印字された文章を記載した質の悪い紙だ。
いわゆる瓦版である。
この世界に存在するマスメディアと言っても良いかもしれない。
ただ、内容はいわゆるゴシップ情報に近い。
むしろ、何らかの政治的主張を書くアジビラ……扇動活動と言った方が正解かもしれない。
「まあ、街角で賑やかなわけだ。
失われた祖国を奪還し、モンスターから人の手に……とかな」
これまた良くある主張である。
モンスターの排除と奪われた土地の奪還は、確かに人類の悲願である。
だが、それを達成するための様々な努力を無視して、結果だけ求める性急さはいただけない。
無謀としか言いようのない主張の羅列は、興奮を呼び興しはするが実現性が全く言及されない。
言ってしまえば子供の「あれが欲しい!」という要望と大差はない。
そんなものが、声高らかに主張されて、それなりの支持を得てしまうと、とんでもない大間違いに発展する。
「なまじ安定してきたからなんだろうな。
最近、こういうのがやたらと支持されてるようだ」
「嘘だろ」
「信じたくないのは分かるが事実だ。
特に年寄りあたりがうるさくてな」
こういった主張は昔から存在するが、それに呼応する者はなかなかあらわれないものだった。
だが、最近はそうでもないらしい。
「どうも昔の失敗の雪辱がしたいみたいなんだよな」
呆れはてた調子でオッサンはぼやいた。