163回 その背景はいかに?
(しかし……)
新人達を励ましつつも、不安もある。
なぜ今攻勢をしかけるのか?
それが不思議でしょうがない。
それだけの条件が揃ったという事なのかもしれない。
軍勢にしろ、それを支える物資にしろ、攻勢に出られる状態になったのかもとは思う。
でなければ、押し寄せるモンスターを押し返していく事など不可能だ。
もしこうなっていたのなら、これほどありがたい話はない。
人類が版図を取り戻すという事になるのだから。
しかし、最前線についての正確な情報は無い。
一応、政府発表などはあるが、それらはだいたいが政府に都合のよい事だけでかためられる。
嘘はついてないにしても、都合の良い部分だけを抜き出して伝える事くらいはよくある話だ。
それはそれで、欺瞞で出鱈目で、正確さがないという意味では嘘と言える。
なので、政府発表も全部を信じる事は出来ない。
ただ、ある程度の予想が出来るような情報はある。
人と物の動きだ。
兵士として何人徴募されたのか、最前線にどれだけの物資が送り込まれたのか。
これらによって、何かしらの動きがあるならば察知は出来る。
大きな動きがあれば、何かが起こる前兆と言える。
実際に何が行われるのかは分からなくても、人と物の移動は何かしらの準備があると考える事は出来る。
他にも、貴族や武家の使用人が聞いた事を漏らしたりする事もある。
それらはあくまで下世話な噂話にしかならない。
だが、内部の情報である事は変わらない。
それ自体は正確なものではなくても、何かしらの真実を含んでる可能性はある。
これには出入りしてる業者などの見聞きした話なども含まれる。
これらを総合して、何かが起こってる事、それが何であるかを想像する事は出来る。
町から離れたタカヒロはこういった事に疎くなってるが、それでも周旋屋のオッサンから色々聞く事はある。
それからするに、今回の攻勢の話はどうもうさんくさいところがあるという。
「まあ、あくまで俺らの予想だがな」
そんな事を言ってるオッサンは憮然とした顔をしていた。
手元にいた義勇兵が軍に志願したせいで、稼ぎがままならなくなってるという。
なんだかんだいって義勇兵にもそれなりの仕事がある。
モンスターが蔓延るこの世界において、武装してそれなりの戦闘力があるというのは大きい。
行商人の護衛や、町や村の警備などで呼ばれる事は珍しくもない。
大量に出現したモンスターへの対策として雇われる事もある。
そういった仕事に従事していた者達が退去していなくなったので、依頼がこなせないのだ。
「本当に面倒な事をしてくれる」
兵士の募集をかけた政府への不満は大きいようだった。
「それで、何があったんだ?」
話をもとに戻すために、タカヒロは続きを促す。
オッサンも気をとりなおしていく。
「それがなあ。
どうも裏があるようなんだ」
「裏?」
「ああ。
今回の攻勢、どうも理由があってのものじゃないらしい。
ここ最近は軍勢も増えてはきてるようではあるんだ。
けどな、それでモンスターの所に攻め込む体勢がとれたわけじゃないみたいだ」
「というと?」
「まあ、余裕が出て来たのは確かだが、それを見て貴族の一部が動いてるようなんだ。
武家も絡んでる」
「……功名争いか?」
タカヒロはその可能性に思い至った。
オッサンは苦渋の表情で頷く。
毎度の事だが、誤字脱字の報告に助けられている。
ありがたや。




