162回 自分には無理でも彼等には可能性がある
「そりゃまあ、そうだよな」
新人達の希望をタカヒロも理解していく。
彼等がそうなる気持ちもよく分かるのだ。
タカヒロとて、転生前の記憶がなく、この世界で普通に生きていたらこれに飛びついただろう。
だが、今はそうではない。
前世の記憶を含めた人生経験が、無理な背伸びを拒絶する。
夢を見るのも大事かもしれないが、実力に見合ったところで頑張らないと頓挫する。
そんな事をタカヒロはいやというほど味わってきた。
だから今生では出来る範囲で頑張ろうとしてきた。
その結果、今がある。
(村もあるし、女房もいるし、子供も産まれるしなあ……)
20歳という若さでこれだけのものを手に入れたのだ。
これらを捨てて軍隊に参加しようなどとは思わなかった。
むしろ、今あるこれらをどう守って保つかを考えていた。
新人の義勇兵達と同じ立場であったらともかく、今のタカヒロには大事にしなければならないものがある。
(無理だな)
これらを振り切って別の道にすすむ事など出来なかった。
する必要性なども無かった。
「まあ、がんばれ」
可能性にかけようとする新人達にはそう伝えていく。
彼等がどれだけ出来るかは分からない。
だが、タカヒロには出来なかった事が彼等には出来るかもしれない。
彼等にとっても、おそらくそれが良い道だろうと思う。
どれ程稼いでも根無し草の義勇兵よりは、ある程度は安定してる軍隊の方がマシである。
少なくとも、この世界の常識でいえばそうなる。
「ただ、今のお前らじゃ採用されるかも分からない。
されたとしても、戦場で死ぬ可能性の方が高いだろう。
やり方は出来るだけ教えるから、モンスターを相手にがんばれ。
経験値を手に入れろ。
レベルを上げるんだ。
そうすりゃ、戦場でも死ににくくなる。
軍としても使える奴を放り出したくはないだろう。
取り立てられるかどうかは分からないが、それなりの地位になれる可能性はある」
あくまで予想だ。
確証はない。
しかし、使う側の立場からすれば、おそらくそう考えるだろうとは思った。
それでも武家に、武士として取り立てられるかどうかは分からない。
さすがにそれは相当な才覚を示さないと無理だろう。
だが、やり方をおぼえ、技術レベルを上げれば生き残る可能性は高くなる。
それだけは確かだ。
だからこそ、まずはここで頑張ってもらいたかった。
「それに、ここで頑張れないような奴が、軍でも頑張れるとは思えないしな」
ましてや、モンスターと激突する最前線で生き残れるわけがない。
新人達としては今すぐにでも軍の採用窓口に走り込みたいところであろう。
だが、何の技術もない状態で迎え入れてくれるとは思ってもいなかった。
軍の方でも、ある程度の技術がある事を条件に採用している。
特に義勇兵の場合、戦闘能力がある程度でなければ門前払いだという。
新人の徴兵とは違うのだ。
その新人の徴兵にしても、体格や運動能力などが優れた者が採用される。
そこから弾かれてるという段階で、条件は厳しくなってるとも言える。
優秀な才能がないなら、その分を技術レベルで穴埋めしないといけない。
新人義勇兵達は、まずそこを超えねばならなかった。




