161回 庶民の出世の道の一つとして
「軍隊の採用?」
「はい、今やってるんですよ」
「モンスターへの攻勢をかけるって。
それで兵隊が必要なんですって」
「だから、俺達それに応募できるようになりたいんです」
新人達は希望に満ちた目でそう言っていく。
聞いてるタカヒロは、そういう話が出てる事を思い出していった。
「そういえばそんな話があったな」
「そうなんですよ。
採用基準に満たなかった俺達でも、もしかしたら可能性があるかもしれないんです」
「体格とか体力検査を通ってなくても、戦闘技術が一定以上あれば採用されるって」
「だから、義勇兵をやりながら腕を磨いて、軍隊に採用されればって思ってるんです」
「なるほど」
言いたい事はだいたい分かってきた。
確かに彼等にとっては絶好の機会なのだろう。
この世界において軍隊というのは、庶民が成り上がれる数少ない道ではある。
基本的に実力主義にならざるをえず、比較的高い地位まで出世する可能性がある。
また、取り立てられれば末端であっても武士階級となる。
そうなれば、代々の俸禄がついてくる。
武士として生きねばならなくなるが、それであっても庶民よりは良い。
庶民でも家を継げる立場ならばともかく、そんな可能性のない末っ子あたりにとっては夢のような話だ。
しかも今はモンスターが押し寄せる時代だ。
常に消耗し、常時募集がかかってるのだから、採用窓口は比較的広い。
だからこそ、体力自慢の者達は軍隊を目指す。
役人になるよりよっぽど可能性があった。
これは負の側面を踏まえての事でもある。
いくら出世の可能性があるとはいえ、そう簡単に成り上がれるわけがない。
たいていの庶民は兵士として軍歴を終える。
これは戦場で死ぬのであっても、定年まで勤めあげるのでも変わらない。
階級で言えば兵士、せいぜいそれらを束ねる兵士長あたりまでが出世の限界だ。
そしてこれらは、身分でいえば武士ではない。
あくまで庶民として軍務に従事してる者として扱われる。
軍に居る間は給料なども支払われるが、身分が変わる事は無い。
身分が変わるのは足軽と呼ばれる最下級の武士になってからである。
この足軽、仕事内容そのものは兵士と変わらない。
権限などもほとんど同じだ。
他に指揮する者がいない時は、優先して兵士を束ねる事にはなる。
言ってしまえば、その程度の権限しかない。
だが、それでも武士という階級の一員である。
軍務においては兵士より一段階上の立場とみなされる。
この足軽にすらなれないのが、軍隊の常であった。
この足軽に取り立てられ、更に出世を重ねる事が出来る者は限られている。
本当に優れた才能を示すか、武功をたてるしかない。
それには才能だけでなく運を味方につけねばならなくなる。
それが出来てようやく軍における出世が可能となっていく。
それでも昇進していけるのは、中堅どころがせいぜいである。
軍を率いる将軍などになれる可能性はほとんどない。
軍において指揮官になりたいならば、傭兵団のような戦闘集団を率いて参陣する方が早いとすら言えた。
そうすれば、暫定的にであっても指揮官の立場を得る事も出来る。
それでも、貴族や武士などのより上位の指揮官や司令部などに命令で動かされていく事にはなるが。
何にしても、庶民で成り上がるのはまず不可能と言えた。
それでも、まだマシだと言える世の中である。
わずかでも出世の可能性がある。
それが出来なくても給料を支払われる。
居場所がある。
それは庶民の末端にいる者達にとっては垂涎の的であった。
義勇兵として入ってきた新人達が目標とするのも当然ではあった。