16回 思いもがけない素顔に驚くという定番な展開 2
汚れが落ちてさっぱりしたというのもあるだろう。
湯上がりの上気した肌なども雰囲気を良くしてるのかもしれない。
サキが渡したという着替えが、比較的こざっぱりしたものであるのも大きい。
だが、それらの後押しを受けてるとしても、ミオは可愛いというかととのった顔立ちをしていた。
それが、魔術機具による灯りのある食堂ではっきり見て取れる。
居合わせた者達の目にもはっきりとうつる。
「おい、誰だあれ?」
「え、新人?」
「あんな別嬪、いたっけ?」
そんなささやき声があちこちで起こる。
タカヒロが連れてきた奴隷であるとは思ってないらしい。
水浴びに行く前と後とでの落差が激しくて同一人物と認識出来てないようだった。
そんな連中の声が耳に入ったところで、タカヒロの意識は現実に戻ってきた。
(面倒になりそうだな)
周りの反応からその可能性を多いに感じていく。
何せむさくるしい野郎が大半である。
楽しみは酒と博打と女という分かりやすい連中だ。
汚れが落ちて綺麗な素顔があらわになったミオの存在は、飢えたケダモノ共に餌を与えるようなものだった。
早急に対処せねば、と思って腰をあげようとする。
その前、いまだにタカヒロの前に座っていたサキが立ち上がる。
「こら、鼻息荒くしてんじゃねえよ」
並み居る男共に向かって啖呵を切っていく。
「ちょっと若くて可愛い娘が来たからってはしゃぐな。
そんな元気があるなら、布団に入って【自己処理】でもしてろ!」
卑猥な事を言って男共をいさめる。
それを聞いた野郎共も、苦笑して引っ込んでいく。
同業者の女に手を出す事の面倒さを知ってるだけに、下手な事は出来なかった。
やれば、女義勇兵を敵に回す。
それはそれで厄介で面倒な事になる。
そして、男連中の不毛なちょっかいに対して、女義勇兵は普段の諍いを横に置いてでも連携を図る。
好んでそんな所に手を出そうなんて馬鹿はそれほど多くはなかった。
そして、馬鹿は長生き出来ない。
これまで、そういった実例が何件か発生している。
それもあって男連中は同業者の女には一定以上に接近しないようにしていた。
周旋屋にいるミオも、そういった同業者だと彼等は思ったのだろう。
確かに周旋屋に登録したので、一応同業者と言える。
もっとも、義勇兵であるわけではないので、厳密に言えば同業とはいえない。
なのだが、女連中のつながりは、そういった仕事の違いを超えている。
それは、全体からすれば少数派になる女連中の、生き残っていくための団結のあらわれではあった。
互いに助け合い、不当な暴虐に対抗しないと餌食にされる。
そういった事もあったために、周旋屋に所属する女はたいてい手を組んでいる。
ミオが今日入ったばかりであるというのは、そこから外す理由にはなっていない。
こういった理由があるので、周旋屋にいる男共は同業の女に不用意な事はしない。
好んで敵を増やす必要は無い。
明日は死ぬかも知れないので刹那的になる者はいるが、それは少数である。
刹那的に行動する者は、本当に人生の残り時間を刹那的なまでに短くする。
集団で動く周旋屋の女衆は一致団結してそうなるように動いていく。
誰もがそれを恐れていた。
なお、手を出さない一番の理由はそれだけではない。
魅力が求める水準に達してるかどうかというものもある。
特にモンスターとの戦闘を専らとする女義勇兵などは…………。
この部分も言及すれば命に関わる事になったりする。
これらに加えて、サキは決定的な事を口にする。
「それと、この娘は本当に手を出すんじゃないよ」
周りを睥睨しながら声を張り上げる。
「分かってると思うけど、この娘はこいつのもの、奴隷だからな」
一瞬の静寂。
そして、食堂にいる男の目がミオとタカヒロに注がれていく。
ようやく先ほどの娘と同じ人物だと認識したらしい。
それを見て────、
ミオは肩をすくめ。
タカヒロは机の上で頭を抱えた。