158回 町での食い扶持稼ぎ
臨月が迫る頃。
お腹を抱えたミオとともに馬車に乗り込み町へ。
これから出産と、生まれてから少しは落ち着くまでを町で過ごす事になる。
その間、村の方はトシノリやフトシで動かしてもらう事にする。
出産前後の合わせて二ヶ月の間、タカヒロは町で生活する。
直接の指示が必要な事などほとんどないので安心して任せる事が出来る。
「何かあれば、すぐに町に行くんで」
「そうなったらよろしく頼むからのお」
こんな言葉をかけてくれる仲間の傍若無人ぶりに頭が沸騰しそうにはなったが。
それでも、たいていの事なら問題無く進めてくれるだろうとも思っていた。
とはいえ、町にいる間に何もしないわけにはいかない。
蓄えはあるにしても、それを切り崩していくだけのつもりもない。
周旋屋の義勇兵達と共に、そこそこ稼ぎにいくつもりではいた。
事前に周旋屋にもそう伝えている。
最低限必要になる人数は確保済みだ。
ついでに、と頼まれてる仕事もあった。
「新人の教育をしてくれんか」
オッサンに持ちかけられた仕事はそれだった。
「色々あってな。
最近は腕利きや中堅が減ってなあ。
新人があぶれてるんだ」
「なんだそりゃ」
「前にも言っただろ。
大規模な徴募があったんだよ」
「ああ、そういや言ってたな」
言われて思い出す。
今年に入ってから、軍への大規模な勧誘があったのを。
「確か、モンスターの所に殴り込みをかけるってあれか?」
「そうだ。
それの募集で結構な連中が乗り込んでいってな。
今じゃ七割くらいしか残ってない」
「そりゃ大変だな」
「しかも、まだ出向こうって奴がいる。
このままじゃどんどん作業員が減っちまう」
「ご愁傷様だな」
「だから、お前に新人を教育してもらいたいんだ」
理由と事情は分かった。
だが、タカヒロからすれば旨みが見えない。
「俺に何の利益があるんだ?
まさかただ働きじゃないだろ」
「もちろんだ。
ここの個室を無料で使ってくれて構わない。
食事もつける」
「なるほど」
町に滞在してる間の生活費はほぼ無料になるという事だ。
悪い話ではない。
「稼ぎは?」
「お前が稼いだ分はお前の好きにしろ。
ただまあ、新人にもそれなりの分け前は与えてやって欲しいがな」
「はいよ」
倒したモンスターの分はタカヒロの自由という事になった。
あとは、新人の取り分をどうするかだが、ここは無難に山分けにしようと思った。
どれだけ稼げるか分からないが、寝床と食事が無料なのでさほど生活について気にする必要は無い。
稼ぎがそのまま手取りになるのだから、こんな良い話は無い。
税金はともかくとして。
そんなわけで町にいる間の仕事にはありつく事が出来た。
新人達に戦闘力を期待出来ないので稼ぎはそれ程でもない。
だが、町にいる間の負担を減らす事が出来るのは大きい。
あとはやり方を新人がしっかりと身につけてくれれば御の字だ。
そうならないなら、それはそれでしょうがない。
教育を任されはしたが、死なずに育てあげろとは言われてない。
オッサンにもこのあたりはしっかりと確認してある。
駄目な奴が自滅したところで関知するところはではないと。
むしろ、何も考えてないような輩は早急に間引きされるよう願ってもいた。
愚か者というのは自分だけではなく、周りにいる者達を引きずり込んで滅んでいく。
そうなる前にさっさと処分されてもらいたいというのが周旋屋の意向だった。
タカヒロも実体験からその通りだと思っていた。
そういう奴は、面倒が大きくなる前にさっさと死ぬべきだと。
だからこそ、集まってくる新人達の中にそういう者がいないのを願った。