156回 計画変更と新たな流れの策定
「何にしても作業場は必要になるな。
材料の置き場所にもなるし」
「あと、排水溝くらいはどうにかなるんじゃないのか?」
「何にしろ、年内に出産のための場所を作るのは無理だな」
話し合いで色々と意見が出てくる。
現実問題として、出産する場所を今すぐ用意するというのは無理だという事になった。
作りたいのはやまやまだが、どうしても費用や時間が足りない。
必要になる機材や設備も分からないので、作りたくても作れないというのもある。
まずはこういった情報を集めねばならない。
「それに、産婆さんがなあ……」
一番大きな問題点はこれである。
場所を作ったとしても、それを有効活用出来る人がいない。
これについては、女衆の方で候補者を作ってもらうしかない。
そして、出産を担当できる者を育てていってもらうしかない。
とはいって、今から産婆としての技術を身につけていくとしても、まともに活動出来るほどの技術を得るまで2年や3年はかかる。
それまでは、出産の度に村と町を行き来する事になるだろう。
しかし、2年後3年後に産婆になれる者がいるなら、その時期に建設を完了させれば良いとも考えられる。
それまでに必要な情報を集めて、場所を建設していけば良い。
必要になる費用も、それまでに積み上げておく事になる。
もちろんそれまで何も作らないというわけではない。
さほど手間も時間も金もかからないものならば、今のうちに手をつけておこうとも考えていく。
「だとして、何を作る?」
出て来る当然の疑問。
そして、それぞれの立場から、あれこれと考えが出てくる。
あれが必要だ、こっちが先だと色々と。
そのどれもが一理あり、無碍に退ける事ができないものである。
だが、やれる事に限りがあるので、どうしても優先順序をつけねばならない。
自然と話し合いは紛糾していく。
ここにいたり、タカヒロもある程度強行に決着をつけていく事になる。
いつまでも決まらないままではいられない。
特に、早急に決定が必要な場合は。
2年や3年という時間はあるが、それでも余裕があるわけではない。
早め早めの決定をしていかないと、全てが遅きに失してしまう。
何より、話し合いが目的でやってるわけではない。
結論を出すために話し合いや会議をしてるのである。
決定はいずれそのうち……などというのは、会議そのものを否定する愚行でしかない。
話し合いが大事といって、話し合いを目的にするなど論外どころでは済まない悪行である。
様々な反対を押し切り、タカヒロは決定を下していく。
各意見の利害を調整して……などとは言ってられない。
誰かの意見を完全に退ける事もした。
角が立たないようにするなどと言ったら、全てが中途半端になって何も出来上がらずに終わってしまう。
計画の失敗は、こういった事が原因で起こる事だってあるのだ。
まずは一つ、求める何かを作り上げる。
それが先だ。
他のものは、その後に確実に作っていく。
同時進行が出来れば良いが、それをやる余裕は無い。
まずは一つ、確実に作り上げられるものを設置する。
その為にまずは、出産場所の設置を諦めた。
今年の冬に作るのは作業場。
今後も作る様々な施設の建造を推進するためにも、これをまず作る事にした。
作業に必要な大きさの小屋と、必要な工具を揃えていく事になる。
それを用いて、来年の冬に出産場所を作る事とした。
同時に、女衆に誰が産婆をやるのかを決めてもらいもした。
子供を取り上げる者がいなくてはどうにもならない。
来年あたりまでは優先して必要な技術を上げるよう求めた。
でなければ、場所を作っても意味が無い。
これには女衆も納得してるので大きな反対が出る事はなかった。
ついでとばかりに出産についてのお願いもしていった。
授かりものなので完全に制御する事など出来るわけもない。
だが、出来るならば夜通し励んでの子作りは冬の時期に集中してもらいたいと伝えた。
次の秋から冬に出産が集中するようにだ。
これについては強制は出来ない、お願いをするに留まった。
また、確実に達成しようというものではなく、出来るならそうしてほしいという努力目標にもした。
そうでなければ受け入れられないだろうという読みがあった。
義務としてしまったら反発を招く可能性が高い。
それよりは、なるべくこうしましょう、としておいた方が良いというものだ。
実際、仲間も「それならば」「しょうがないよな」と納得していく。
実際に出来るかどうかは分からないが、そうした方が良いのは彼等も分かっている。
反対する理由は何もなかった。
あとは、作業場作りと平行して、将来の拡張先についての調査も行う事とした。
増加するであろう人口の移住先は未だに確定されてない。
その候補地を出来るだけ早く見つけるために、今年も調査を続行する事にした。
村の今後についての緊急会議は、こういった事を決定して終了した。