152回 いつも通りに新しい事態が追加される
去年に引き続き、今年も割と好調に物事は進んでいく。
出現するモンスターの数も安定しており、稼ぎは順調だ。
減る事のないモンスターの動向を嘆くべきであろうが、義勇兵にとってはありがたい。
そんな調子で去年と同じように全てが進んで行くと思われた。
当然ながらそんな事もない。
「お腹が大きくなってるよ」
そう言われたのは、春が終わろうという頃合いだった。
言われてすぐには意味が理解出来なかったが、じわじわと理解していく。
「てことは、もしかして」
「うん、おめでただと思う」
まだそれほど目立つわけでもない、だけど腹を両手で抱えるようにしてるミオがそう言う。
タカヒロの頭は真っ白になり、思考と動きが一瞬止まる。
しかし、
「でかした」
反射的に出てきた言葉と共に、体は本能的にミオを抱きしめていた。
思い返してみれば、三月頃にミオの体調が悪い時期があった。
食べた物を吐き出したりする事があった。
それらは程なく落ち着いたので大事にはならないで良かったと思ったのだが。
それらも今思えば悪阻だったのかと合点がいく。
味覚が変わったのか酸っぱい物をほしがるようになったりと、良く言われる変化もあった。
振り返ってみれば、事実を示す出来事は確実にあったのだ。
まだもうちょっと先だろうと思っていたせいか、それが目出度い事を示すものだとは思ってなかったのだ。
まだ正確な診断をしたわけではないからはっきりとは言えない。
しかし、まず間違いないだろうと誰もが思っていた。
医療技術レベルを上げていた者は、まず間違いなくそうだと言っている。
もっとも、自分のレベルはまだ低いから、より確実な調べが必要だろうとも言っていた。
だが、何はともあれ高い確率でそうなのだろうと言えた。
ミオの妊娠は。
話は瞬時に村の中を駆け巡り、即座に話題になっていく。
「やりましたね、大将」
「頑張った甲斐がありましたね」
「これからはやり過ぎないように控えないとまずいっすよ」
「今度は赤子用の物を揃えないとのお」
からかい半分、祝福半分の声がタカヒロにかけられていく。
ミオの方も女衆に囲まれ、笑顔と祝い言をかけられていた。
いずれそうなるだろうと思われていたものがやってきて、村は一挙に盛り上がっていく。
「しかし、思ったよりも早かったよな」
「さすが大将だよ」
「毎晩頑張ったんだろうなあ」
「休みの日は遅くまで出てこなかったしな」
「前日は夜の作業に励んでたってか?」
「勤勉だからな、大将は」
「それでこそ俺達の大将だよ」
「俺らも頑張らないと」
「ああ、大将に続かないと」
「さすが大将だよ」
褒めてるようには聞こえない声もこうして上がっていく。
それらには苦い顔をするタカヒロだが、仲間のこの調子はいつもの事なので色々と諦めた。
それよりも、まずはミオが本当におめでたなのか確かめるのが先である。
「今度、町に連れていくから」
最近は持ち回りになっていた町への買い出し。
その順番を崩す事になるが、タカヒロは町にミオを連れて行く事にした。
「気をつけろよ、あまり無理するなよ」
「大丈夫だよ。
馬車に乗るくらい」
「だけど、転んだりしたら」
「心配しすぎだって」
割とおろおろと戸惑ってるというか、いつも以上に心配性になってるタカヒロ。
そんな旦那に対してあっけらかんとしてるミオ。
二人のそんな姿に周りの者達は笑ったり呆れたりといったところだ。
「大将、もうちょっと落ち着けって」
「モンスターが相手ってわけじゃないんだから」
「でもなあ。
やっぱり、こう、気になってなあ」
「はいはい、分かったから落ち着いてね」
そう言って周りの連中になだめられながら、タカヒロは馬車に乗り込む。
「そんじゃ、出発しますよ」
「おう、ゆっくり、揺れないようにな」
「……無茶言わないでください」
ゴムタイヤもサスペンションもない馬車にそれを求めるのは無茶というものである。
それは分かってるのだが、言わずにはおれない。
そんなタカヒロは、
「……馬車用のサスペンションとか開発出来ないかな」
と考えていった。
隣でミオは苦笑する。
「だから心配しすぎだって」
タカヒロらしいのだが、さすがにやりすぎではないかと思えてしまう。
もっとも、そんなタカヒロだからこそ一緒にやっていけるのだとも思っている。
なんだかんだで気にかけてくれてるからありがたかった。




