15回 思いもがけない素顔に驚くという定番な展開
「そうだったな、全然気づかなかった」
水浴び場から戻ってきたサキに言われて、着替えの事を失念していた事に気づく。
そんなタカヒロにサキは、「あんたって奴は」と呆れる。
だが、先ほどの一件があるのでそれ以上は言わない。
「それでどうすんのさ?」
「悪いけど、明日とか替えの服とか買いにいってくれない?
金は出すから」
「それ、あたしへの依頼ってこと?」
「先ほどやらかした一件への償いの一部って事で。
ミオの分の料金は出すから」
「あんたねえ……」
どうやら自分を使えるだけ使うつもりだと、サキはこの時はっきりと理解した。
「まあ、いいけどさ。
あの娘も悪い子じゃないみたいだし」
「なら頼む。
さすがに女については分からん事だらけだし」
「あんたはそれ以前に女心とかを理解出来るようにした方がいいんじゃない?」
「それが出来たら苦労しねえよ」
タカヒロはそのあたりを投げ捨てていた。
気にしていたら何も出来なくなるのは、ささやかな人生経験(前世込み)で充分に学習していた。
「それより、明日もミオの世話をよろしく」
「……死んじまえ」
サキの怨嗟の声を、タカヒロは勝者の余裕で受け流した。
そんなサキの前で、ミオの帰りを待つ。
「あの、お待たせしました」
そう言ってミオが戻ってきたのは、女の風呂は本当に長いなと思ってテーブルに突っ伏してた時である。
叱るつもりはないが、内心で呆れてはいた。
「おう、それじゃ部屋に……」
ミオを連れていこうとして、声と動きが止まった。
戻ってきたミオを見て、そうなる程度の衝撃は受けた。
(誰?)
素でそう思ってしまった。
それだけ印象が変わっていた。
土汚れが当たり前に肌に貼り付いてるのが当たり前。
それが当たり前の世の中である。
見た目の善し悪しなど論じる以前の問題だった。
身綺麗にしてるだけでも「見目麗しい」と言われるような御時世である。
一定以上の階層の貴族や、これも上級の武士、そして裕福な商人や職人でもなければ身綺麗になどしてはいない。
そして、貴族などの上流階層なども、白粉などで汚れを隠す事が珍しくもない。
庶民が汚れを落とすなど、それこそ滅多にある事ではない。
タカヒロもそれは同じで、村にいた時に他の者が汚れを落としてるところをあまり見た事がなかった。
前世の現代日本の記憶があるタカヒロは、可能な限り汚れを拭ったりはしていたが。
それとて変わり者扱いは当たり前で、極度のきれい好きか潔癖症なのではと疑われるほどだった。
なので、ミオの素顔を見るのはこの時が初めてだった。
そして、汚れが落ちたミオは、意外なほど可愛い顔立ちをしていた。