146回 皆で作る初めての冬 4
とりあえずやってみようという事で始まる水場の排水溝作り。
溝を掘って、補強の板を差し込んで終わり……となるはずだが、これが思いのほか手こずった。
まず、溝を保つための板を揃えねばならない。
これがまず手間だった。
山地なので木はそこらに生えてるが、板にするとなると結構な手間がかかる。
そもそもとして、板に適した大きさの木が意外と少ない。
まっすぐに伸びてるものもない。
適切なものを見つけて加工するとなると、かなりの時間がかかってしまう。
町から買ってきてもいいが、そうすると金がかかってしまう。
ある程度は自分達で調達し、足りない分を購入する事にはしたが、意外な出費が発生してしまった。
また、作業が出来る人間が少ないのもはっきりした。
木材加工の技術を持ってるものはいるが、そんなの村に一人しかいない。
他の者達は別の技術を身につけて伸ばしてるので、当然ながら木材加工は身につけてない。
これまでの人生でたまたま修得してる者もいたが、それでもレベル1とかレベル2という程度である。
安心して仕事を任せる事が出来るほどではない。
大雑把に形をととのえるまでやってもらい、あとは木材加工技術を持ってるものに任せる事になる。
仕上げを任せる事が出来る者が少ないので、どうしても時間が必要になる。
また、木材加工を専門で身につけてるものもそれほど高レベルというわけではない。
これもまた時間がかかる原因になってしまった。
そして、実際に掘るにあたり、どのくらいの大きさが必要なのかという事でも悩んだ。
使うときは一度にかなりの水を使う。
なので、排水能力がそれなりにないと、水があふれる事になる。
無駄に大きくする必要はないが、適度に大きく無いと困ってしまう。
大きければそれだけ作業量も必要になってしまうし、無駄が増える事になる。
今後の排水溝作りでも、ここで作る大きさが参考になるだろうから、割とあれこれ考え、意見を出していく事になった。
溝を固定するための立て板の設置も難しかった。
土が溝になだれこまないようにするためのものであるが、地面から出過ぎると足にぶつかる事になる。
なので、地面すれすれまで埋め込む事になるのだが、この高さの調整が難しい。
板を支える添え木の杭も簡単に打ち込まれてはくれない。
なかなか難儀なものであった。
こんな調子で手間取る事もあったが、それでも大きな滞りもなく作っていく事は出来た。
だが、小さな作業ではあったが意外と手間取る事も多く、試行錯誤の連続にもなった。
やってみて分かる事というのが数多くあった。
思いもよらない面倒や問題が続出した。
「こりゃあ、簡単にはいかないな」
ただ地面に溝を掘るだけだと思っていた排水溝。
それだけでもかなりの手間がかかる。
これを村中に張り巡らせるとなると、そうとうな面倒が起こる事になる。
他の様々な作業でも同じ事が言えるだろう。
そんなつもりはもとより無いが、舐めてかかるわけにはいかないとあらためて感じた。
だが、出来上がった排水路の評価は上々であった。




