144回 皆で作る初めての冬 2
「全然ゆっくりしてないね」
悩んでるタカヒロの後ろからミオが声をかけてくる。
「少しは息を抜きなよ」
「そうしたいんだけどねえ……」
出来れば苦労はしない。
村のこれからを考えるとどうしてもあれこれ悩む。
とはいえ、これ以上無理をしてもどうにもならない。
一度思考を放棄して寝転がる。
ようやく導入した畳の感触が心地良い。
「お茶、飲む?」
「ああ、置いておいてくれ」
「はいはい」
行儀の悪い亭主に文句も言わず、ミオはタカヒロの机に湯飲みを置いた。
様々な事を書き散らした紙をよけて。
「でも、そんなに大変なの?」
横になってぼーっとしてるタカヒロに尋ねる。
聞くまでもないとは思ってるのだが、どうしても確かめたくなってしまう。
目の目で唸って首をひねって体をひねって伸ばして、あーでもないこーでもないと言ってればそうなるだろう。
「まあねえ」
と唸るタカヒロは、自分が抱えてる事をどう伝えようか考えて、やめた。
自分で整理すら出来てない事を他人に伝える事など出来ない。
「ひたすら面倒だ」
事実を端的に伝えてそれで終わりにしてしまう。
それに特に不満を抱かず、
「そっか」
とミオはタカヒロのところによっていく。
そして、その頭を自分の膝にのせた。
タカヒロの精神安定にはこれが一番とよく分かっての事だ。
女房の気遣いに、タカヒロは遠慮無く甘えていく。
「落ち着いた?」
「いーや、全然」
暫くして尋ねられるが、答えは決まってる。
何せ解決策が何一つ浮かばないのだ。
とにかく問題山積みでどうにもならない。
どこから手をつければいいのかも分からない。
まずは簡単なところから、とは思うがそれが何なのかも分からない。
「頭がこんがらがってどうしようもない」
そこから抜け出せないでいる。
きっかけがあれば抜け出せるのかもしれないが、それも思いつかない。
そうしてるうちにも時間が過ぎていってしまう。
「どうすりゃいいのかねえ」
「うーん、私からは何とも言えないけど」
ミオも答えがあるわけではない。
何をどうすればいいのかなど分かるわけもない。
ただ、自分の立場というか、自分の視点というのは持ってる。
「出来れば水はけを良くして欲しいな。
水場の周り、結構大変だから」
主婦としての要望である。
「今は水捨て用の穴を使ってるけど、すぐに一杯になるし。
変な匂いもでてくるし。
なんとかならないかなって思うよ」
「なるほど」
聞いてるタカヒロは、そんなもんかと思った。
普段あまり目にする事のない生活担当者達の声として、少し珍しさはあった。
が、それを聞いてすぐに思い立つ。
「ちょっとそこを見せてくれないか」
体を起こしてミオに向いてそう問いかけた。