143回 皆で作る初めての冬
結婚が終わって村に戻り、またいつもの毎日が始まる。
去年と同じようにモンスター退治の比率が下がり、村の中での作業が増えていく。
だが、技術を保持してる者が増えた事で様相は多少は変わっている。
それぞれが身につけた技術をもとに村の中を見て周り、それぞれの観点から様々な事を考えていた。
まず、農業の技術を上げた者は、田畑を見てため息を漏らした。
「分かってたけど、これを元に戻すのは難しいぞ」
田畑は既に田畑とはいえなくなっている。
雑草が生い茂るのはもちろん、木々が生えてもいる。
それらを処理して土を元の状態に戻すには相当な努力と時間が必要になる。
「5年から10年はみておいた方がいいな」
今の技術レベルではまだはっきりとした事は言えないが、おおよそそれくらいはかかると判断された。
村の中も似たようなものだ。
「排水溝もなあ。
それだけ作るにしても、結構手間がかかるぞ」
土木作業の技術を上げた者が、村全体を見渡してそう言った。
ただ溝を掘るだけではない。
水の流れが滑らかにいくように掘っていかねばならない。
それでいて、人の動きの邪魔にならないようにもしなくてはならない。
掘った溝が崩れないように板などで補強する必要もある。
出来れば、溝に蓋をして、足を取られないようにもしたい。
理想的な状態にするなら、やはりそれなりの努力と技術が必要になる。
「冬の間に全員でかかればどうにかなるかもしれないけど。
ちょっと何とも言えないな」
何より区画整理も絡んでくる。
無闇に掘れば良いというものではない。
町作りを踏まえて、効果的に設置していかねばならない。
加えて水道なども考えていくが、こちらはまるっきり目処がたたなかった。
何せ規模が大きくなりすぎる。
川の水を村まで引いて、それを貯めておく貯水槽を作るとなると相当な手間がかかる。
今現在の技術力ではどうにもならない。
「これは職人を呼ぶしかないよ」
木工などの技術を上げた者ははっきりとそうタカヒロに告げた。
そのタカヒロも自分の仕事をしながら思う。
「事務作業が出来る人間が欲しい……」
今はまだそれほど手間ではないが、この先人や仕事が増えたら一人ではどうにもならない。
出来れば事務作業が出来る人間が欲しかった。
すぐにどうにかなる事はないにしても。
そんな人間を養成するためにも学校が必要である。
だが、それを担当する予定の者は、
「まだそんな段階じゃないですよ」
とのたまってくれる。
「教養のレベルも、教育のレベルも全然足りません」
教えるべき知識も、知識を伝授する能力も足りないという。
当然ながら、仕事が出来る人間を育てるなんて夢のまた夢だ。
「それに、学校そのものもないですし」
子供がある程度育つ頃には建立したいが、今はまだ学校すらも出来上がってない。
それに手習いのために必要な書物も、文字の練習や計算のために必要な筆記具や紙もない。
机も当然無い。
「これもどうにかしないと」
村の生活設備だけでも大変なのに、そこまで手が回るのかと不安になってしまう。
だが、子供は早ければ来年には生まれてるだろう。
その子が習い事をする年齢になるまで数年しか猶予はない。
急いでどうにかしなくてはならない事であった。
時間はあるようでほとんどない。
習い事をするための場所を確保するだけでもかなり大変である。
他にもやるべき事もあるので、そう簡単には進められない。
だが、教育は決して外す事が出来ない。
これがあると無いとでは大きな差になるからだ。
「どれからやっていくかな」
今の段階では全てを同時進行するわけにはいかない。
何かに絞って確実に達成し、その間他の事は後回しにせざるえない。
ではいったい何をとなると色々考えてしまう。
どれもこれも、放置してよい事ではない。
「どうすっかな」
考えがまとまらないまま時間だけが過ぎていく。




