141回 当事者がそういうのだから問題はないのだろう
「でも、そうなると男はどうなってんだ?
女は……まあ、一応需要があるようだけど」
それが良いのかどうかは悩ましいが、一応引き受ける者は存在する。
義勇兵の奴隷というか嫁という形で。
だが、あぶれた男はどうなるのだろうという疑問が出てくる。
「なに、そういう奴らはこっちに来て義勇兵になっていくよ」
「なるほど……」
分かりやすい話だった。
女は奴隷という形で義勇兵のところに嫁ぎ。
男はその引き受けてである義勇兵になる。
「これはこれで上手くはまってるのかな」
「どうだろうな。
正直、俺もどうなのか分からん」
オッサンも腕を組んで首をかしげてる。
「けど、落ち着く所に落ち着いてると思いたい。
色々問題があるにしてもだ」
「それもそうだな」
その言葉にタカヒロも納得する事にした。
何が幸せで何が問題なのかを突き詰める事が出来るほどの頭もない。
第一、それよりももっと別の所に頭も気力も体力も使わねばならない。
とりあえず上手く回ってる物事よりも、自分の周りの事に能力を費やさねばならない。
なので、実態が結婚斡旋所であり家政学校となってる奴隷商人と、働き手を作り出してる周旋屋についてはここで考えを打ち切ることにした。
「それにしても、奴隷が女房か」
「奴隷妻……とでも言うのかなあ」
すさまじい名前であるが、間違った表現というわけでもない。
「いいのかねえ、こんな事してて」
「正直、罰当たりな気がしないでもない」
「結局奴隷って事だしな」
「まともな方法ではないわな」
結果として悪くはないところに落ち着いてる。
それぞれの立場や状況を考えれば、こういった方法しかなかったのだろうとも思う。
しかし、人を売り物として扱ってるのに変わりはない。
はたしてそれでいいのかという思いもある。
「まあ、当事者が幸せならそれでいいんだろう」
オッサンはそう考えて納得する事にしていた。
タカヒロも自分自身が幼なじみを奴隷として購入した手前、あまり強く否定をする事も出来ない。
「まあ、そのうち何かしら是正されるんだろうな……」
悪い事ならば何かしらの手入れがされるはずである。
それが人の手によるものか、天の配剤としか思えないようなものによるのかは分からない。
だが、きっと一番良い所に落ち着くだろうと思う事にした。
完全なる思考の放棄と言える。
「でも、私は文句とか不満は無いよ」
オッサンの所から戻ったタカヒロは、ミオからそんな言葉をかけられる。
「村にいるより今の方がずっといいし」
「奴隷でもか?」
「奴隷になってからの方が扱いは良いし。
それもあまり問題はないかな」
そんなもんだろうかと思ってしまう。
まあ、ミオの実家よりは良い扱いというか待遇をしてるという自負はある。
というか、ミオの実家における扱いが酷かったというのが正解であろう。
ミオを下僕扱いしていたあの境遇に比べれば、たいていの所が天国のようなものだろう。
(でも、下僕扱いなんて珍しくもないか)
悲しい事に、この世界では当たり前とも言える事ではあった。
家を継ぐ長男や、その長男に何かあった場合の予備である次男はともかく、それ以外の子供は基本的に待遇は良くない。
同じ家族であっても、下男下女といった使用人扱いがほとんどだ。
下僕といってもおかしくはない場合もある。
そんなものに比べれば、今が良いのは当然である。
奴隷という名目よりも、家族というか共同生活者という実態が違いを明確にしている。
まかり間違っても下僕としては扱ってない。
それだけの事がミオには大きかったのだろう。
「そう言って貰えるとありがたいよ」
そう言ってミオを抱き寄せる。
部屋に戻っていて他に人もいないから誰憚ることもない。
「これからもよろしくな」
「うん」
二人はそのまま寄り添っていく。
さすがに周囲に人がいるのでいつものようにむつみ合うのは控えていた。
「あ、でも」
「なに?」
「俺の呼び方どうなったの?
やっぱり、兄ちゃんのまま?」
「…………それは」
「それは?」
「まだ決めてない」
「おいおい」
「しょうがいないよ、どう言えばいいのか分からないし」
まだ解消出来ない問題も残っていた。
だが、さして大きな問題ではないので、タカヒロはこれからの行く末を気長に見守る事にした。




