14回 周りにいる愉快な面々という事にしておこう 5
義勇兵が多いという事はその成果を受け取る機会も多くなる。
そして、義勇兵が持ち帰るのは、多くの場合モンスターの核となる。
この核、モンスターの生命の源と言われている、魔力を秘めてる物質である。
モンスターは死ぬとその姿を風に吹かれた塵のように消えていく。
そして、その後に残るのが核と呼ばれる物質である。
魔力を秘めてるというか、魔力を凝縮して結晶化してるというか。
核というものがどういったものなのかは未だに研究がされてる事である。
だが、それが魔力の塊であり、魔術を用いて利用出来る事に変わりはない。
そして、これを利用する事が出来るのが魔術師と呼ばれる者達である。
魔力は意のままに操り、何らかの効果を発現させる。
それが魔術である。
たとえば、魔力を変換させて炎や冷気を発生させたりする。
これを自由に行えるのは魔術師だけと言われている。
この魔力を少しでも汎用的に用いようとしてたのが魔術機具と呼ばれるものである。
これを用いれば、魔術を使う事が出来ないものでも炎を発生させたりする事が出来る。
ただ、一つの機具が持つ機能は一つだけ。
汎用性は乏しい。
たとえば、炎を発する用途で作られた魔術機具は、それ以外の魔術に用いる事は出来ない。
冷気を発生させたりする事は不可能である。
そういった機能をあらかじめ持たせているならばともかく。
そして、二つ以上の機能を持たせるのは、かなり難しい。
たとえば、ガスコンロに火を点ける以外の機能が無いように。
電灯に灯りを点ける以外の用途がないように。
魔術機具とはこういったものである。
加えていうならば、こういった機具に用いられるモンスターの核は電池に近い使われ方をしてる。
ただ、ガスや電気など様々なエネルギーを魔力一つで賄っている。
汎用性は高いと言えるかもしれない。
何より魔術機具が優れてるのは、魔術師でなくても使える事であろう。
使い方の手順を守れば、誰でも効果を得られる。
一つ一つの道具の用途は決まっているが、誰もが使えるという普遍性は大きい。
ただ、生産に手間がかかるので量産が難しく、多くの者達の手に渡るほどではない。
その魔術機具を、この周旋屋は比較的多く備えていた。
女子の水浴び場もその一つである。
「ほら、こっち」
サキがつれていった所には、大きな水置き場があった。
風呂桶と見まごうそれには、魔術機具が取り付けられている。
「ほら、お湯が出来てるだろ」
「本当だ……」
「この魔術機具で、水をお湯に湧かすことが出来るんだ。
これで、冬でも暖かいお湯が使えるってもんよ」
「凄い……」
初めて見る魔術機具に驚く。
時々話に聞いてはいたが、まさかこれだけの事が出来るとは思わなかった。
「ま、使ったら水をつぎ足しておかなくちゃならないけどね。
それに、冷たい水を湧かすには時間がかかるから、そこが欠点だけど」
それでも、わざわざ火を焚いて沸かすよりは楽である。
「必要な分をそっちのタライに汲んで使ってくれ。
それで、使った分は、そっちの水くみ場から注いでいってくれ」
サキが水浴び場の隅にある水道の汲み取り口を指す。
そこから桶で水を汲み上げる事になる。
だが、タライに汲み取る分を補充するくらいならそれほど問題は無い。
言われた通りにお湯を汲んでから水をつぎ足していく。
「あと、タオルと着替え……は無いみたいだね」
「はい……すいません」
「あ、いいって。
女物なんてあいつが持ってるわけないだろうし」
タオルがあるのが救いであろうか。
「……水浴び終わってからも汚れた服を着せるつもりだったのかねえ」
まさかとサキは思ったが、それもありそうだとすぐに思い直す。
がさつで何も考えてないのは男の特徴であると彼女は考えていた。
「じゃあ、あたしの持ってるのを貸すから。
今日はそれを着てな」
「すいません、迷惑をかけて」
「なーに、ちゃんと洗って返してくれればいいさ。
明日はどうなるか分からないけど、洗濯とかする場所も教えるから」
「はい、お願いします」
素直で良い返事だと思い、サキはこの新人が少しだけ気に入った。