138回 とうとうこの日がやってきた
熱さも過ぎ去る頃には村の中に様々な事が行き渡っていた。
技術を身につけた者達が示した見積もりや設計図。
タカヒロが提示した今後の人口問題。
それらが様々な波紋を呼んで、村はこの先について考え込む事になっていった。
だが、それらも夏から秋に入ろうとする頃は少しだけなりを潜める。
もっと重大な催しがあるからだ。
「うわあ……」
町の仕立屋でそれを見たミオは、簡単の声をあげたまま動かなくなった。
目の前にあるのは、白一色の衣装。
目の前に迫った婚礼のためのものだ。
「ねえ、本当にいいの?」
おそるおそる尋ねるミオに、
「当たり前だ。
お前のためのものだぞ」
とタカヒロは返す。
それを聞いたミオは、更に顔を赤くする。
感動のあまり声も出せなくなる。
はしゃぐほどの余裕も無いようだった。
「しかし、ついにこの日が来たか」
立ち寄った周旋屋ではカズマがニヤニヤと笑っている。
サキも呆れるというか諦めたような顔をしている。
「まあ、捨てなかったのはほめてあげるわ」
「誰が捨てるか」
いまだに酷い事を言われてタカヒロが反発する。
そんなタカヒロを無視してミオに向けて、
「まあ、これからも気をつけなさいよ。
結婚してから態度を変える男もいるから」
「女も同じだろ」
何を言うかと反論を突きつける。
実際、態度が変わるのは男女のどちらかに偏ってるというわけではない。
こればかりは本人の資質によるところが大きく、誰がどうなるかはやってみるまで分からないものがある。
だが、タカヒロとしては強いて何かを変えようとは思ってもいない。
出来れば今まで通りの生活を続けていければと思ってる。
実際、既に同居しており、共同生活は既に始まっている。
それが今後も続いてくれれば御の字だった。
「それより、お前の方こそどうすんだ」
「何が?」
「俺らの結婚にとやかく言ってないで、お前も自分の事をどうにかしろ」
「うっさい」
言われたサキが殺意を込めた目つきでタカヒロをにらむ。
それを正面から受け止め、
「相手がいないのに他人にあれこれ言うな」
と嫌みを言っていく。
その言葉にサキが激怒していくのだが、それをタカヒロは余裕の態度ではじき返していく。
「そんなに怒鳴るよりも、自分の相手でも見つけてこい。
余計な口を差し込んでる場合か?」
「黙れええええええええええええ!」
最大級の叫び声があがる。
だが、タカヒロはそれすらも何処吹く風と聞き流していく。
そんな事よりも優先する事があるからだ。
「じゃあ、ここでいいんだな?」
「ああ、そのつもりだ」
周旋屋のオッサンと最終確認をしていく。
町の神社で式を挙げた後、披露宴というどんちゃん騒ぎは周旋屋の食堂でやる。
他に適当な場所もなかったので、ここでやる事にした。
なんだかんだで馴染みも数多い。
町の食堂を使っても良かったが、そちらだと逆にさほど知り合いもいない。
また、その為に食堂を利用出来なくしてしまうのも気が引けた。
何より、
「ここの方が俺ららしいだろ」
義勇兵の溜まり場と言えば周旋屋だ。
そこを使うのが一番自分達にしっくりくると思ったのだ。
「なら、こっちとしても文句は無いわい」
オッサンももとより否と言うつもりはない。
「その分の料金を支払ってくれるならな」
「はいはい」
商売を決して忘れないのは、ほめるべきなのだろう。
呆れはするが。