136回 少し分かっただけでも困難が見えてくる
春から夏に入り、それも半ばを過ぎていく。
村の施設や設備に真新しいものは無いが、各自の技術レベルと預金残高は積み重なっていった。
生産系の技術上げに入った者達は、この頃には目的の技術をレベル2まで上げている。
まだ素人よりは良いという程度であるが、それでも色々と見えてくるものがあるらしい。
「あそこをどうにかしないと」
「これ、もっと手を入れないと」
建物や設備を見てそんな事を思うようになっている。
何も知識がないのと、多少なりとも何かを知ってる事の違いが出てきている。
同時に、だからこそ分かってしまう限界というのも見えてくる。
「今のレベルじゃねえ」
「もう少し上げないと」
「上げても、作るとなると人手が必要になるし」
「冬の間にやるにしても、全部は無理だ」
必要になる資材や技術力、必要な工具など。
作業量や作業工程。
何かを建造するにして、それに取りかかるためにどれだけの手間がかかるかが見えてしまう。
だからこそ尻込みしてしまう。
やろうとしてる事の大きさが分かってきてるからだ。
それが現状ではかなりの無理難題であるのも理解出来てしまう。
「どうすんだ、これ」
自分達だけで本当に出来るのかと思ってしまう。
「ま、それならそれでいい」
つとめて楽観的な事を言って、タカヒロも対応を考えていく。
「とりあえず、何がどれくらい必要なのか書き出してみろ。
何をどこに作るのかも含めてな」
「設計図って事っすか?」
「そこまで丁重なもんでなくていいよ。
大雑把に、何をどこに作るのかと、それに必要な材料とか工具とかを書き出してくれれば」
頭の中に置いておくだけではない。
書き出す事で実際にどれくらいの規模になるのか、どういう形になるのかを明らかにしていく。
考えてるだけではどうしても見えてこない部分もある。
それをはっきりさせていくためにも、紙に書き出していく。
「それに、こうする事で他の奴にも見えてくるだろ。
そうなれば、どれくらいの大きさになるかを皆で理解する事も出来る」
考えの共有だ。
専門家ならば手に取るように分かる事でも、他の者達には全く分からないし伝わらない。
だが、図にすればそれが少しは分かる事もある。
もちろん専門的な技術面などは理解出来ないだろう。
それでも、全体図がどうなるかが分かれば、今後の理解や作業も早くなる可能性が高い。
技術者の頭の整理だけではない。
他の者達にも全体図を知ってもらうためにも書き出すという作業は必要になる。
「それと、まずは排水溝とかからやってくれ」
「排水溝?」
「そうだ。
出口になるところから。
最後になる部分から。
そこを最初に作ってくれ」
「そりゃまたなんで?」
「出口がなければ、捨てる時に困るだろ」
当たり前の事だが、意外と見落としがちになる。
水道も、家に引き込むだけでは水浸しになる。
流れてきた水を排水しなければならない。
その為の出口を最初に作っておかねばならない。
「それに、排水溝とかがあれば、雨が降った時に助かるしな」
今は雨が降ればそこらがぬかるんだままになってしまう。
それを少しでも解消するために、排水を良くしたかった。
これがあるだけでもかなり生活水準は上がるはずである。
ただ、排水溝もそうだが、水道などを取り入れるにしても計画的にやっていかねばならない。
下手に敷設しようものならば、無駄に入り組んで効率が悪くなてしまう。
出来るだけ単純な構造にして、なおかつ全戸に行き渡るようにしていかねばならない。
そうなると、建物の位置も含めて考えていかねばならない。
「結構面倒な事になるな」
こうなると、小規模ながら区画整理の様相を呈してくる。
水道だけでなく、道路もどうするかを考えていかねばならない。
それも、今現在の人数と戸数の事だけ考えてるわけにはいかない。
どの道、今後は確実に人口が増える。
出産という形で。
生まれてくる子供達が、いずれは成長して大人になり新しい家を建てる事になるだろう。
それを見越していかねばならない。
「となると……大分大きく区割りをしていかなくちゃならないのか?」
この世界の出産数は結構なものである。
一家族5人6人は当たり前。
場合によれば10人以上になる事もある。
双子三つ子などが生まれる事もあるからだ。
これらにより、一家族の子供がとんでもない数になる事もある。
それだけの子供を養っていけるかどうかは別の話となるが。
また、生まれた子供が全員育つというわけでもない。
乳幼児死亡率が高いだけに、生まれて一年以内に死んでしまう子供の数も多い。
これらを緩和するためにも、医療技術を身につけた者を育てる事にしたのだ。
だが、おそらくはかなりの出産数になると思われる。
いずれは落ち着くだろうが、生まれてきた者達がたくさんいれば、それらを収容する場所も必要になる。
あらかじめ考えておかねばならない事だ。
でなければ、将来大変な事になってしまう。
しかし、考えてみるとこれがとんでもない事になるというのが分かってしまう。
「どうすんだ、これ……」
予想される数値を見て、タカヒロは頭を抱えた。
今更だが、予約投稿の日時を間違っていた。
なんてこった…………。
残りは明日投稿することにした。
続きを待ってた皆さん、すんません。