132回 焦る気持ちはあるけれど
急がないとと思ってるのはタカヒロだけではない。
周りの連中、特に女衆からの突き上げは色々と強烈である。
「いつになるんですか?」
「早くしてあげてください」
「女を待たせるもんじゃありませんよ」
そんな声がタカヒロに直接間接問わずに叩きつけられていく。
言いたい事は分かるから強く反発も出来ないが、さすがに閉口する。
連日のように突っつかれるとさすがにこたえる。
とはいえ、悠長にしてられないのも分かるのだ。
この世界、成人が早く結婚も早い。
15歳で成人と同時に結婚なんて珍しくもない。
そしてミオはもうその年頃だ。
その気があるなら早く嫁にしてやれ、と周りが考えるのは当然のことだ。
遅れればそれだけで嫁き遅れと言われてしまう。
そんな風聞などはタカヒロにとってはどうでもいい。
だが、そういう風にならざるえない現実がある。
寿命だ。
食糧事情がよく、医療が行き渡っている現代日本ではない。
医者も治療方法もさほど発達してない世界だ。
乳幼児死亡率もそうだし、寿命だってそれほど長くはない。
人生50年と言うのがこの世界の基本だ。
このため、なるべく早めに子供を作らないと、家族が成り立たなくなってしまう。
晩婚はそれだけ子供の誕生を遅くし、育成にかける時間がなくなる。
現代日本のように20代で結婚して子供を授かるなんてやってられない。
そんな事をしたら、場合によっては子供が成人する前に親の寿命が来てしまう。
出来るなら可能な限り早く結婚した方が良いというのは、この世界の状況ではごく自然な発想であった。
そうでなくても、タカヒロとて早めに済ませておきたいと思ってる。
待たせるものでもないし、タカヒロも出来るだけ早くやりたいと思ってる。
しかし、何にしても金である。
こればかりはどうにもならない。
それは分かってるのだけど、どうしても焦ってしまう。
「でも、そんなに頑張らなくてもいいよ」
当事者のミオがそう言ってくれるのが救いであった。
「頑張りすぎて大怪我でもされたら嫌だから。
それより、ちゃんと帰って来てくれるのが一番だよ。
稼いでもらわないと困るけど」
「はいはい」
生活の事を考えるあたりは、すっかり主婦といったところだろうか。
実際、関連する技術レベルも着実に上がっている。
日頃の生活の中で得られる経験値を家事関係の技術に費やしてるからだ。
家の中の事はたいていこなす事が出来るようになっていた。
その分、口うるさいというかやかましい事も言うようになってきたが。
「仕事に熱中しすぎて失敗するのが一番駄目だからね」
「分かってるよ。
無理して死ぬような事なんて絶対にしないから」
それはタカヒロが徹底してる方針である。
無理をしないで稼ぐ。
安全圏を確保して行動する。
無理して手を出すならば、手にしたものを捨てて安全を確保する。
それで今までやってきた。
おかげで生きて今を迎えている。
「無理してこれを捨てるわけにはいかないわな」
そういって、頭をのせてるミオの膝の感触を楽しむ。
「死んだらこんな事絶対出来ないからな」
「そうそう。
だから絶対生きて帰ってくるんだよ」
「おう」
言われるまでもなく、明日も確実に生きて変える事を優先しようと考えていく。