131回 春がきて 5
そんな事もあり、成長させる技術を決めた者達はそれを上げるために。
まだ決めかねてる者は将来のために経験値を積み上げていった。
もちろん生活のために金(に換金できるモンスターの核)も積み上げていく。
新しい機具や道具を導入するために。
家を改築するために。
もう少し生活用品を増やすために。
村全体で必要な設備を建造するために。
まだ購入してない者は、奴隷を手に入れるために。
それぞれがそれぞれの目的のために、日々の糧を手に入れていく。
とはいえ技術レベルの上昇はやはり簡単にはいかない。
他と比較すればかなり早いのだが、それでも時間はかかる。
もともと、一年を通して2つ3つ上がれば充分と言われるものだ。
それが早くなったといっても、年間を通して4つ5つ上がるのが限界である。
一回のレベル上昇に2ヶ月はどうしてもかかってしまう。
長い目で見れば早いのは確かだが、人として2ヶ月という時間は長いと感じてしまう。
それが知らず知らずに焦りを生み出しもした。
その都度タカヒロは、
「まあ、来年か再来年に形になってれば良いことだし」
と皆をなだめていく。
そんなタカヒロも、やはり多少の焦りはあった。
村の今後や仲間の成長具合についての不安はない。
時間をかけてやっていこうと思ってるので、それほど焦りはしなかった。
危惧するのはただ一つ、予想外に強力なモンスターなどが襲ってくること。
そして、仲間が焦って事故をおこす事である。
だが、それ以外については、割と鷹揚に構えていた。
例外はただ一つ。
(挙式をどうするかな)
やはりこれである。
(家の借金は、まあこの調子なら返せるだろうし。
蓄えも、ぼちぼち増えてるけど。
この調子だとどうしても時間がかかるな)
そんな盛大な式を挙げるつもりはない。
さすがに無理があるので、それは諦めるつもりだった。
そもそも、この世界の冠婚葬祭は隣近所で協力してやるもので、さほど金がかからないというのもある。
豪勢なものが執り行われる事もない。
言葉は悪いが貧相なものといえた。
それはあくまで現代日本に比べてであるのだが。
だが、良く言えば質素なそんな催しであっても、せめてこれだけはと思ってるものがある。
(白無垢……折角だしこれくらいはなあ……)
袖を通すのは一生に一度だけではある。
二度も三度もあってたまるか…………とタカヒロも思っている。
だが、そんな一度しか使わないものであっても、せめて婚礼衣装はそれなりのものを用意してやりたかった。
日々、生活面で多大な面倒を見てもらってるからである。
見返りというのもおかしいだろうが、これくらいは用意してやらないと、と考えていた。
その為、どうしても時間がかかってしまう。
(あんまり遅くならないようにしたいけど)
こんな悩みがタカヒロにつきまとっていた。
贅沢な悩みである。




