130回 春がきて 4
「でも、何を身につければいいんだ?」
焦りは無くなったが、疑問の回答が出たわけではない。
余裕は出て来たが、技術を身につけねばならないのは変わらない。
だとして、最低限必要なものはなんだろう、という疑問が出てくる。
「とりあえずはこんな所かな」
大雑把に自分の考えをタカヒロは提示していった。
「前にも言ったと思うけど、だいたいこんなもんになると思う」
そう言って覚え書きを記した紙を皆の前に出す。
仲間はそれらに目を落としていった。
書かれていたのは、本当に大雑把なものだった。
大工と鍛冶、測量といった建築・土木関係の技術。
それと、農業。
治療が出来る医者。
魔術を使える者。
更には読み書きや計算をまとめた一般教養。
以前言った事をまとめたものでもある。
これらを身につけ、出来るだけ高いレベルにまで育ててもらいたいとタカヒロは考えていた。
「まあ、大工と鍛冶、それと測量は分かるわな」
「技術だと、木工と鍛冶、それと建築かな。
測量はそのまま測量だな」
「農業は田畑が出来上がってからだろうけど。
まあ、先にレベルを上げておくのも悪くはないか」
「医者と魔術もな。
確かにこれはいて欲しい」
「でも、教養って必要なのか?」
「読み書きや計算が出来れば便利だけど。
でも、高レベルにする必要あるのか?」
ここに疑問を抱く者が続出した。
全員、必要性は分かってる。
だが、高レベルにする意味が分からなかった。
「それはな、将来子供達に教えるためだ」
疑問への答えは他の者達が予想すらしなかったものだった。
「どのみち子供は生まれてくる。
お前らもそのつもりで奴隷を買ってるんだろ」
「ええ、まあ」
「そりゃあもちろん」
「まだ先の話ですけどね」
それでも、奴隷という形で嫁を確保しようとしてるのは間違いない。
「その子供達に教育を施す奴が欲しい。
それこそ、読み書きも計算も出来ないんじゃどうしようもない。
その為にも教えられるだけの能力と、教えるための技術を身につけた奴がいてほしい」
子供達の素養を上げるためにも、教える側の能力は高いに越した事は無い。
また、教えるのもそれなりの技術が必要になる。
それこそ『教育』という技術があるくらいだ。
これもあわせて伸ばしていってもらいたかった。
単に物知りなだけでは教師になれない。
名選手ではあっても、名監督にはなれないのだ。
「俺は子供を野蛮人にしたくない。
だから、人として必要な事をしっかり身につけてもらいたい」
そう言われて誰もが、生まれてくる子供達の事を考えた。
生まれてくるであろう子供が使えない人間であってほしくはない。
そうさせないためにも、それなりの教育が必要なのは彼等も理解していた。
「なるほどね」
「そういう事か」
言いたい事を理解した者達は、そういってタカヒロの意図を読み取っていく。
その上で、書かれている技術を見ていく。
「だったら、俺は木工かな」
「俺は金属加工がいいかな」
「建築かな。
どれだけ出来るようになるか分からないけど」
「俺は魔術をやってみたいんだが」
そんな声がそこやここから上がってくる。
それを見つめながら、タカヒロも自分の成長を考えていく。
(やっぱり、運営とか経営なのかな)
上に立つ者として必要に思える技術を考える。
全体をまとめていくために、全体に適切な道を示すために必要そうな技術として目をつけていた。
これらを出来るだけ早い段階で高いレベルにしていこうと。
(面倒になるな、やっぱり)
まだまだ楽は出来そうになかった。




