13回 周りにいる愉快な面々という事にしておこう 4
(何が悲しくて、そんな事しなくちゃならんのだ)
ミオの懸念についてはそう思っていた。
抵抗が出来ない相手を好きにする…………というのは滾るものがある。
だが、それも相手による。
土埃にまみれた女を相手にするほど飢えてはいない。
そんなものに手を出してたまるか、という矜恃|(?)もある。
そもそもとしてミオを可愛いとか綺麗といった目で見る事が出来ない。
この世界、何処に行ってもたいていそうだが、一般庶民は埃まみれだったりする。
外での土仕事に従事する事が多いからだ。
それに、入浴の機会もそう多くはない。
皆無とまではいかないが、濡れ拭きで体を拭く程度がほとんどだ。
風呂もあるにはあるが、だいたい一週間から二週間に一回程度しか入らない。
湯を沸かす手間がかかるからだ。
そんなわけで、男も女もたいていは汚れている。
見た目で魅力を感じる事が難しくなっていた。
「馬鹿言ってんな」
心配を払拭するためにそう言う。
「そんな事より、汚れを落としにいくぞ」
まずは問題を払拭していく事にする。
一旦部屋を出て食堂まで戻り、そこにいた者を引き寄せる。
「おい、サキ」
「ん?」
先ほど近寄るなと言った相手だが、それを無視して声をかける。
「こいつにここの水場を案内してやってくれ。
体の汚れの落とし方とかもな」
「なんであたしが?」
「さっき馬鹿な事をしたのは何処の誰だっけ?」
「う……」
面倒くさそうに断ろうとしたサキだが、そう言われては反論が出来ない。
「それに、しばらくこっちで厄介になるだろうしな。
ここでの生活の仕方を教えてやってくれ。
女しか出入り出来ないところは、俺には説明出来ないし」
「分かったよ、しょうがねえな……」
「これで少しはさっきの態度をチャラにしてやるからさ」
全部を相殺するというわけではない。
幾分態度はやわらげるが、やった事は忘れるつもりはなかった。
「何にせよ、ここですごしてく事になるんだ。
やり方とか知らないと迷惑をかけるだろ。
そうならないようにさせてやれ。
でないと、お前らが面倒を受ける事になるんだからよ」
「はいはい、分かったよ」
言ってる事はその通りなのでサキも不承不承ながら頷く。
「それじゃ、こっちに来な」
と言ってミオを連れて行く。
周旋屋の宿泊施設は寝泊まりするだけではない。
食事を提供する食堂もあるし、それ以外にも生活に必要なものはそれなりに揃っている。
水場と呼ばれる、文字通りに水を使う場所もその一つだ。
井戸ではなく、地下に埋設された水道によって水がひかれており、それを汲んで様々な用途に使う。
飲み水として使うのもそうだし、料理や洗濯にも用いる。
そして、水浴びなども用途の一つになっていた。
特に水浴びについては、一応専用の場所が設けられている。
裸になるので他からの視線を遮断する必要があるからだ。
特に女が利用する場所は入り口から分けて作られており、男の侵入を極力防ぐようになっている。
その仕切られた場所に、ミオはサキにつれられて入っていった。
この周旋屋の宿泊所は、義勇兵が多いので比較的設備がととのっている。
生存率の低さが懸念される仕事であるが、生き残っていけばそれなりに実入りは大きい。
そのため、足りない施設を義勇兵が自腹で導入する事がある。
水場の水浴び場所もそういったところだった。
「こっちだよ」
そう言うサキに連れられていくミオは、それを見て驚く事になる。




