129回 春がきて 3
「必要だから技術を身につけるってのもあるけどさ。
それが済んだなら、やりたい事をやってみるのが一番だよ」
非常に軽い調子でタカヒロは考えを述べていった。
「やって欲しい事はあるけどさ。
全員がそれをやればいいってもんでもないだろ。
何より、やりたくもないものを割り当てても上手くいくわけがない。
だから、一人一人がやりたい事をやっていってもいいと思うんだ」
「そりゃあ、そうしてくれればこっちはありがたいけど」
「でも、必要な技術を誰も持ってないってなったらどうするんだ?」
「それは確かに困るな」
さすがにそれだけは避けたいところである。
「けど、やりたくもないのを全員にやらせるわけにもいかないから。
まあ、二人や三人くらいにはこっちの要望を受け入れてもらいたいけど」
逆にいえば、それ以外の者達は好き勝手にしてもいいという事である。
「もしかしたら、それが将来なんかの役に立つかもしれないし」
楽観的な事を言ってタカヒロは話を終えた。
だが、考え無しに言ってるわけではない。
ある程度の技術などは確かに身につけてもらいたいが、それ以外については全く見当がつかなかった。
何が必要になって、何が無駄に終わってしまうのか想像すら出来なかった。
だからこそ、各自が好きな事に没頭すればよいと考える事にした。
そうして身につけた技術が、もしかしたら巡り巡って役立つ時が来るかもしれないからだ。
こればかりは運の要素がからむ。
天の配剤を見守るしかない。
人智の及ばない領域の事を頭で考えてもしょうがないのだ。
だったら、各自の好き勝手に任せた方が良い事もあるだろう。
そうした事が逆に良い結果につながる事もあるのだから。
人のたてた計画は、個人であれ国家であれ破綻するものだ。
未来への見通しなどその極みである。
そういった領域には、知能を絞るよりも直観に従った方が良いときもある。
タカヒロの狙いは、この直観的な部分を各自が発揮してくれる事にもあった。
その為の、好き勝手にやっていけ、という方針でもある。
「まあ、すぐに決まらないならそれでいいじゃん」
あれこれ悩む仲間に、更に言葉をかけてもいった。
「だったら、経験値を貯めてとっておけばいい。
いずれ必要な時に、その経験値を使って技術をとっていけばいい。
何も、経験値が入ってすぐに技術をとらなくちゃならないわけじゃないんだから」
「それもそうか」
「言われてみれば」
「ちょっと焦りすぎてたかな」
「もうちょっと様子を見ていってもいいのか」
何となく焦っていた者達は、その言葉で肩の力を抜いた。
経験値は腐るものではない。
貯めておいて一気に使う事が出来るものだ。
必要な戦闘力を手に入れるために、今までは戦闘技術をとにかく上げてきた。
それこそ必要な経験値が手に入れば即座に。
だから、経験値は貯まったらすぐ使うものという先入観を持ってしまっていた。
そこから解放された事で、知らず知らず抱いていた焦りを捨てた。
何となくだが、春にまでに決めておかねば、と思い込んでいた。
だが、そうでないという事が分かり、全員気楽にものを考えていく事になった。
それが割とよい結果を生み出しもした。




