124回 この先、戦闘だけというわけにもいかないだろう
「戦闘技術も大事だけど、もうそれだけってわけにもいかないと思う。
モンスター相手で手こずる事の無いところまで成長した者も多い。
そういう奴は、別の技術をあげていってもらいたい」
今後を考えての事である。
タカヒロは他の者達にこの旨を伝えていった。
「ここで生きていくなら、どうしても色々な職業が必要になる。
田んぼや畑は農作業の技術が必要だ。
それらをととのえるには土木作業の技術が必要になるだろう。
測量に、大工仕事の技術もいる。
道具を作ったり修繕する鍛冶師もだ。
医者も絶対に欲しい。
だから、こういう技術をこれからは伸ばしていってほしい」
この発言に仲間は様々な反応を示していった。
「それは確かにそうだな」
「今のままってわけにもいかないし」
「でも、そう簡単にいくか?
まともな職人になるとしたら、相当高いレベルが必要だぞ」
「それなら、職人を呼んだ方が早いんじゃ」
「けど、それだと金がかかる」
「まあ、時間をかければどうにかなると思うけど」
「それにしたってなあ」
必要性は分かるが、ものになるまでにかかる時間を考えると誰もが尻込みしてしまう。
モンスターを倒して得られる経験値によって、通常よりは早く成長出来るのは分かってる。
だが、それでも一人前の職人のレベルまでにはかなりの時間がかかってしまう。
その手間を考えると、無理してレベルを上げる必要もないのではと思えてくる。
必要な技術を持つ者を雇えばそれで済む事でもあるのだ。
ただ、そうなると出費が痛いのも確かである。
「さすがに今すぐってわけじゃない。
仲間の懸念を払拭するためにタカヒロは説明を続ける。
「これから2年3年かけてレベルを上げてくれればいい。
集中してレベルを上げていけば、それくらい経った頃には充分なレベルになってるはずだ」
「そりゃ、確かにそうだけど」
「でも、そんなに悠長なことを言ってていいんですか?」
「構わないよ。
どうせ10年以上かけてやっていく事なんだし」
言われて誰もが思い出す。
時間をかけて村を発展させていこうという事になってるのを。
「出来るだけ急ぎたいのは確かだけど、無理してまでってわけじゃない。
子供が生まれて、大人になるくらいまでに間に合えばいい。
それまでの時間はある」
誰もがタカヒロの言葉を聞いて、なるほどと思っていく。
確かにそれだけの時間はある。
無駄にすることは出来ないが、余裕はたっぷりある。
「その為の最初の2年3年は技術向上に努めればいい。
夏場のモンスター退治の時期はレベル上昇にはげんでいけばいい。
来年の今頃は、最低限の事は出来るくらいのレベルになってるだろう。
それから再来年も同じように頑張れば、その時の冬には一人前に近いレベルになってるはずだ」
うんうん、と仲間が頷いていく。
「今度の春からのレベルアップは、基本的にはそうしていこうと思う。
戦闘技術が充分な者は、村に必要な技術を身につけていってくれ。
そして、2年後や3年後に技術者として充分なレベルになっていてくれ」
聞いてる者達は、その頃の自分を想像していく。
義勇兵としてモンスターと戦う能力のある自分というだけではない。
生産系の技術を身につけた、職人などになってる自分を。
それは、かつてそうなれればと思ってかなえる事の出来なかった姿でもある。
「いつまでも戦闘ばかりやってるわけにはいかない。
俺達も年を取っていく。
その時まで戦闘だけってわけにもいかないだろう。
そうなるまでに、村の中でも働いていけるような人間になっておこう」
仲間はそれを聞いて、目に熱を宿していった。




