121回 女衆にとって最も気になるのは
「さて」
寒さが増していくなかで、ミオも気合いを入れていく。
「今日もがんばらないと」
最近増えた女衆と共に、この日も仕事に乗り出していく。
炊事・掃除・洗濯・裁縫の他にも、やるべき事はある。
何せ自給自足自作が基本である。
縄や袋なども自分達で作らねばならなかったりする。
購入してもいいのだが、町まで出かけて手に入れるのも手間と金がかかる。
ちょっとしたものならば自作しておくのがこの世界の基本だ。
日中の女衆は、こういった事も仕事としてこなさねばならなかった。
また、使えば減っていく消耗品の管理などもしていかねばならない。
何がどこにどれだけあるのかなどは、常に把握しておかないと無くなった時に困ってしまう。
次の買い出しで何を買ってくるのかも決めねばならない。
村で使ってるものも、各家庭でのものも含めてなるべく正確に把握せねばならなかった。
そんな事を井戸端会議をしながらこなしていく。
最近は人数が増えたので少しは余裕が出てきたが、それでもまだまだ人手不足はいなめない。
もっと人が増えないかなとはミオでなくても考えてしまう。
これについては男衆の甲斐性にかかっているので、ミオ達にどうにか出来る事ではない。
外でがんばる野郎共の働きに期待するしかなかった。
とはいえ、それは新たな奴隷が増える事でもある。
諸手をあげて歓迎というわけにもいかなかった。
さすがにこんな境遇の人間が増えるのを喜ぶ事は出来ない。
タカヒロの集団にいる男達が悪い人間でないと分かっていてもだ。
出来れば穏便に相手を見つけて欲しいというのは、ミオを始めとした女衆全員の望みではある。
酷い扱いをされてるという事はないのだが。
もっとも、購入目的が目的だけに、何もされないという事はさすがにない。
早ければ購入したその日のうちに。
遅くとも村にやってきてから一ヶ月以内には、一線を越えている。
奴隷であればそれもやむなしであり、こればかりはどうしようもない。
救いなのは、購入された方もそれを苦にしてない事だろうか。
様々な事情で売りに出された者達がほとんどである。
親元にいたころだってそれほど良い境遇だった者は少ない。
嫁の貰い手もなく、家で仕事の手伝いをして暮らしていたのが大半だ。
その待遇も決してよいものではない。
この世界の標準ではあるのだが、だからといってそれが最善だというわけでもない。
家の手伝いという事でただ働き。
寝床と食事が出るだけで、それ以上はない。
そして親や家を継ぐ兄弟などにこきつかわれる日々。
そんな所から更に外に追い出されたようなものだ。
実家や家族に良い思い出があるわけでもない。
むしろ、買い取られてこの村に来てからの生活の方がマシなくらいだ。
比較する事すら出来ないほどの差があるくらいに。
だからなのだろうか。
売り飛ばされ、買い取られた割には、女衆の表情は良い。
買い取った義勇兵達は、実家の者達よりは女衆を大事にしている。
我が儘を聞き入れたりはしないが、買い取った者達を人間として扱っている。
立場は奴隷であっても、実態はそうではない。
彼女らにとって、これまでの人生でもっとも気楽にすごせる状況にあると言って良い。
「本当に、買われて正解だったよね」
冗談としてであるが、そんな声が出て来る事もある。
それに、周りにいる女も似たような境遇である。
その事が連帯感を生み出してもいた。
お互い似たような境遇だから、という事で親近感めいたものを感じてもいる。
もとよりいがみ合ったりするつもりも無いが、やはり何かしら共通事項があると打ち解けやすい。
「色々あったけど、ここまで来たんだからお互いがんばろう」
そんな意識も芽生えていた。
たとえそれが上っ面だけの関係でしかないにしても、とりあえず協力体制は出来上がっている。
女衆にとってはそれで充分だった。
そんな彼女らにとって今一番の関心事は、
「ところで大将との式は何時になるのかねえ」
「冬を越えてからになるんじゃないかな」
「まあ、それくらいが妥当だよね」
「冬の間にってのは、さすがにねえ」
「でも、春だと色々忙しくならない?」
「ああ、それはねえ」
「だったら、他にやる事がない冬にやっちゃうのもいいのかな」
「準備が出来るならその方がいいんだろうけど」
「そのあたりどうなのかな」
「まあ、大将だったら余裕じゃないの?」
といった事である。
他に話題もないので、一番興味をもたれてるミオとタカヒロの事に話が集中する。
何より、一番近くにミオがいるのだから弄りやすい。
「実際どうなの?」
「さあ?
それこそ兄ちゃんに聞いてみないと」
素っ気ない態度で話をかわすのが、ここ最近のミオの日課になりつつあった。




